「社内に財務担当者がいないので、資金繰りは社長である自分が管理している」
「経理は税理士に任せているが、銀行融資や資金繰りの判断は自分で行っている」
「売上や利益は把握しているものの、数か月先にいくら現金が残るのか分からない」
このような悩みを抱えている中小企業経営者は少なくありません。
中小企業では、専任の財務担当者を置く余裕がなく、社長自身が営業、現場管理、人事、資金繰り、銀行対応まで担当していることがあります。
しかし、財務担当者がいないこと自体が問題なのではありません。資金繰りの状況を把握し、必要な判断を行う仕組みがないことが問題なのです。
私は長年、銀行で法人営業や融資審査に携わってきました。その経験から、規模が小さくても資金管理がしっかりしている会社がある一方、売上規模が大きくても資金繰りの把握が不十分な会社を見てきました。
この記事では、財務担当者がいない中小企業でも実践できる資金繰り管理の方法を、銀行融資の実務的な視点から解説します。
結論|財務担当者がいなくても、社長が資金繰りを管理する仕組みは作れる
最初に結論を申し上げます。
専任の財務担当者がいなくても、社長が確認すべき数字を絞り、毎月決まった手順で管理すれば、資金繰りの状況を把握することは可能です。
そのために必要なのは、複雑な財務分析ではありません。
- 預金残高を把握する
- 今後の入金予定と支払予定を確認する
- 毎月の利益を確認する
- 借入金の返済予定を把握する
- 数か月先の資金繰りを予測する
- 資金不足が予測される場合は早めに対策を検討する
まずはこれらを継続することが重要です。
経理担当者や税理士が作成した数字を、社長が経営判断に利用できる状態にすることが、財務管理の第一歩になります。
財務担当者がいない会社で起こりやすい5つの問題
1.預金残高だけで資金繰りを判断してしまう
社長が資金繰りを管理している会社では、銀行口座の預金残高を見て、資金に余裕があるかどうかを判断することがあります。
しかし、現在の預金残高が多いからといって、資金繰りが安全とは限りません。
例えば、現在の預金残高が1,500万円あっても、翌月に仕入代金800万円、給与400万円、借入金返済200万円、税金300万円の支払いが予定されていれば、合計支払額は1,700万円になります。
その間の入金がなければ、200万円不足する計算です。
重要なのは、現在の預金残高だけでなく、今後いつ、いくら入金され、いつ、いくら支払う必要があるのかを把握することです。
2.決算書はあるが、毎月の利益を確認していない
税理士から年に一度、決算書の説明を受けている会社は多いと思います。
しかし、決算書だけでは、現在の経営状況をタイムリーに把握できません。
例えば、前期決算が黒字であっても、今期に入って売上が減少したり、原材料費が上昇したりすれば、足元の収益は悪化している可能性があります。
財務担当者がいない会社ほど、月次試算表を活用し、売上高、売上総利益、営業利益などを定期的に確認することが大切です。
3.借入金の返済負担を十分に把握していない
複数の銀行から融資を受けている会社では、毎月の返済額や今後の返済予定を正確に把握していないことがあります。
借入金の元金返済は、原則として損益計算書の費用にはなりません。
そのため、利益が出ていても、借入金の返済によって預金が減少することがあります。
例えば、税引後利益と減価償却費の合計が年間800万円である一方、借入金の年間元金返済額が1,200万円であれば、簡易的な返済原資だけでは400万円不足します。
もちろん、実際の現金収支は売掛金や在庫、買掛金の増減などによっても変わります。
それでも、借入金の返済額を把握することは、資金繰り管理の基本です。
4.銀行への相談が資金不足の直前になってしまう
資金繰り表を作成していない会社では、支払いが近づいて初めて資金不足に気づくことがあります。
しかし、銀行融資には審査が必要です。
銀行に相談したからといって、すぐに融資を受けられるわけではありません。
資金が不足する直前に相談すると、必要な資料を準備する時間も限られます。
資金不足が予測される段階で早めに銀行へ相談することが、資金調達の選択肢を確保するうえで重要です。
5.社長しか資金繰りの状況を知らない
財務担当者がいない会社では、社長だけが預金残高、銀行借入、支払予定などを把握している場合があります。
この状態では、社長が多忙になったり、不在になったりすると、資金繰りの管理が滞る可能性があります。
すべてを社員に任せる必要はありませんが、入出金予定や借入金返済予定など、必要な情報を整理しておくことが望ましいでしょう。
財務担当者がいない会社が実践すべき7つの資金繰り管理方法
方法1.預金残高と今後の入出金予定を一覧にする
最初に取り組むべきことは、会社の預金残高と今後の入出金予定を一覧にすることです。
複数の銀行口座がある場合は、それぞれの残高を確認し、会社全体で利用できる預金額を把握します。
そのうえで、売掛金の入金予定、仕入代金の支払い、給与、家賃、税金、借入金返済などを整理します。
最初から複雑な管理表を作る必要はありません。
Excelなどで、日付、入金額、支払額、予定残高を記録するだけでも、資金繰りの見通しを把握しやすくなります。
方法2.向こう3か月以上の資金繰り表を作成する
預金残高と入出金予定を整理したら、資金繰り表を作成します。
例えば、次のような簡単な表から始めることができます。
| 項目 | 11月 | 12月 | 1月 |
|---|---|---|---|
| 月初預金残高 | 800万円 | 700万円 | 550万円 |
| 入金予定 | 1,200万円 | 1,100万円 | 1,300万円 |
| 支払予定 | 1,300万円 | 1,250万円 | 1,100万円 |
| 月末預金残高 | 700万円 | 550万円 | 750万円 |
※金額は説明のための仮定です。支払予定には借入金返済などの資金支出も含めています。
この例では、12月末の預金残高が550万円まで減少する見込みです。
ただし、月末残高だけでは月中の資金不足を見落とす可能性があります。支払いが集中する日については、日別または週別の資金繰りも確認しましょう。
資金繰り表は作成して終わりではありません。入金や支払いの予定が変われば、その都度修正することが大切です。
方法3.毎月確認する財務数字を絞る
財務担当者がいない会社では、最初から多くの財務指標を管理しようとすると、継続が難しくなります。
そこで、社長が毎月確認する数字を絞ることをおすすめします。
| 確認項目 | 確認する目的 |
|---|---|
| 売上高 | 売上の増減を把握する |
| 売上総利益・利益率 | 本業の採算を確認する |
| 営業利益 | 営業活動の収益力を確認する |
| 売掛金残高 | 代金回収の状況を把握する |
| 棚卸資産 | 在庫への資金負担を確認する |
| 借入金返済額 | 返済による現金支出を確認する |
| 預金残高と資金繰り予測 | 資金不足を早期に把握する |
これらの数字を毎月確認するだけでも、経営状況の変化に気づきやすくなります。
詳しくは、社長が毎月確認すべき財務数字7項目も参考にしてください。
方法4.借入金の一覧表を作成する
銀行借入がある会社では、借入金の一覧表を作成しておきましょう。
最低限、次の項目を整理します。
- 借入先の銀行名
- 現在の借入残高
- 毎月の元金返済額
- 金利
- 最終返済期限
- 信用保証協会の保証の有無
- 担保や保証の状況
借入金の一覧表があれば、毎月の返済負担や今後の返済予定を把握しやすくなります。
また、銀行から追加融資を受ける場合にも、既存借入の状況を整理して説明できます。
特に、複数の銀行から借入をしている会社では、銀行別だけでなく会社全体の返済額を確認することが重要です。
方法5.税理士と資金繰り管理の役割を分担する
中小企業では、経理業務や決算申告を税理士に依頼しているケースが多くあります。
ただし、税理士に決算書を作成してもらっていることと、会社の資金繰りが管理できていることは別です。
税理士との契約内容によって対応範囲は異なりますが、例えば次のような役割分担が考えられます。
| 担当 | 主な役割 |
|---|---|
| 経理担当者・外部記帳担当 | 日々の入出金記録、請求・支払情報の整理 |
| 税理士 | 会計処理、決算・税務申告、試算表に関する説明など契約範囲内の業務 |
| 社長 | 資金繰りの判断、投資判断、借入方針、銀行との重要な交渉 |
社長がすべての数字を自分で集計する必要はありません。
しかし、資金繰りや借入について最終的な経営判断を行うためには、必要な数字を理解しておくことが大切です。
方法6.銀行に説明できる資料を毎月整える
銀行融資を利用している会社では、銀行から決算書や試算表の提出を求められることがあります。
また、追加融資を相談する際には、資金の必要性や返済見込みについて説明する必要があります。
そのため、普段から次の資料を整理しておくことをおすすめします。
- 直近の決算書
- 月次試算表
- 資金繰り表
- 借入金一覧表
- 売上・利益の推移表
- 必要に応じて売掛金や在庫の明細
銀行に説明するためだけでなく、社長自身が経営判断を行うためにも役立つ資料です。
銀行は、会社の業績や財務内容だけでなく、経営者が自社の経営状況をどの程度把握しているかにも注目します。
社長が数字を使って資金繰りや今後の経営方針を説明できることは、銀行との円滑なコミュニケーションにつながります。
方法7.月に一度、資金繰りを確認する時間を確保する
財務担当者がいない会社で特に重要なのは、資金管理を習慣化することです。
日々の業務が忙しいと、売上や現場の仕事が優先され、財務管理が後回しになりがちです。
そこで、月に一度、決まった日に資金繰りを確認する時間を設けることをおすすめします。
例えば、月次試算表が完成したタイミングで、次の項目を確認します。
- 前月の売上と利益は計画どおりだったか
- 売掛金や在庫は増えすぎていないか
- 今月と来月の支払予定に問題はないか
- 借入金返済後の預金残高はいくらになるか
- 3か月先までに資金不足が発生する可能性はないか
最初は短時間でも構いません。
重要なのは、資金繰りを問題が発生したときだけ考えるのではなく、毎月確認する経営管理業務にすることです。
財務担当者がいない会社でも、銀行から融資を受けることはできるのか
ここで、銀行融資について説明します。
財務担当者がいない会社でも、銀行から融資を受けることは可能です。
銀行の融資審査では、専任の財務担当者がいるかどうかだけで融資の可否を決めるわけではありません。
重要なのは、会社の業績、財務内容、資金使途、返済能力などです。
ただし、社長が資金繰りの状況を十分に説明できない場合、銀行は追加資料を求めたり、資金計画について詳しく確認したりすることがあります。
銀行が確認する主なポイント
- 売上と利益の状況
- 預金残高と資金繰りの見通し
- 借入金の残高と返済負担
- 融資を必要とする理由
- 融資後の返済見込み
- 今後の事業計画
財務担当者がいなくても、これらを社長が説明できれば、銀行との話し合いを進めやすくなります。
一方、資料が整っていても、返済能力などに問題があれば融資が難しい場合はあります。
社長一人で資金繰りを抱え込まず、早めに状況を整理しましょう
資金繰りに問題が発生してから、すべてを一人で解決しようとすると、判断が難しくなることがあります。
特に、複数の銀行から借入がある場合や、売上が増えているのに預金が減っている場合は、原因を整理することが重要です。
銀行への説明方法や資金繰りの考え方について疑問がある場合は、第三者の視点を取り入れることも選択肢になります。
銀行融資・資金繰りのメール相談
「財務担当者がいないため、銀行対応をすべて自分で行っている」「資金繰り表を作っても、どこを改善すればよいか分からない」「銀行に追加融資を相談する前に、状況を整理したい」といったお悩みがありましたら、メールでご相談いただけます。
長年の法人融資・融資審査の経験を踏まえ、資金繰りや銀行対応を整理するための考え方をお伝えします。
※ご相談はメールで受け付けています。融資の実行や審査通過を保証するものではありません。ご相談内容によっては回答できない場合があります。
財務担当者がいない会社は、どこまで社内で管理すべきか
資金繰り管理を行ううえで、すべての業務を社内で処理する必要はありません。
会社の規模や業務量に応じて、社内で行う業務と外部に依頼する業務を分けることが重要です。
社内で管理しておきたいこと
少なくとも、次の情報は社長が必要なときに確認できる状態にしておきたいものです。
- 現在の預金残高
- 今後の売掛金の入金予定
- 今後の仕入代金や経費の支払予定
- 借入金の返済予定
- 月次の売上と利益
- 資金繰りの見通し
外部の専門家に相談することが考えられること
一方、次のような業務は、必要に応じて専門家の支援を受けることも考えられます。
- 会計処理や税務申告
- 資金繰り表の作成方法の整備
- 借入金の返済計画の検討
- 銀行に提出する事業計画や資金計画の整理
- 財務内容の分析と改善課題の整理
ただし、専門家ごとに対応できる業務や資格上の範囲が異なります。依頼する内容に応じて、適切な専門家を選ぶ必要があります。
社長が判断すべきことと、外部に任せられることを区別すれば、財務担当者がいない会社でも管理体制を整えやすくなります。
財務管理を社長一人に依存させない仕組みを作る
財務担当者がいない会社では、資金繰りの判断が社長一人に集中しやすくなります。
しかし、会社が成長して取引先や借入金が増えると、社長がすべての情報を頭の中だけで管理することは難しくなります。
そこで重要なのが、財務管理を仕組みとして残すことです。
例えば、次のような仕組みが考えられます。
- 入出金予定を共通の管理表に記録する
- 借入金一覧表を定期的に更新する
- 月次試算表の完成後に資金繰りを確認する
- 重要な支払予定を事前に確認する
- 資金不足が予測された場合の相談先を決めておく
こうした仕組みがあれば、社長の負担を軽減できるだけでなく、経営判断の精度を高めることにもつながります。
財務管理は、担当者がいるかどうかよりも、必要な情報が整理され、継続して確認されているかどうかが重要です。
自社の財務管理体制をチェックしてみましょう
次の8項目について、現在の会社で実行できているものにチェックを入れてください。
チェック数は自動的に集計されます。
チェックできなかった項目がある場合は、その項目を今後の改善課題として整理してみてください。
例えば、資金繰り表を作成していない場合は、預金残高と今後の入出金予定を一覧にすることから始めるとよいでしょう。
借入金の返済予定を把握していない場合は、銀行別の借入金一覧表を作成することが第一歩になります。
なお、このチェックリストは財務管理の状況を整理するためのものであり、銀行融資の審査結果を判定するものではありません。
よくある質問
Q1.小規模な会社でも専任の財務担当者は必要でしょうか?
必ずしも専任の財務担当者を置く必要はありません。
会社の規模や取引内容に応じて、社長、経理担当者、税理士などで役割分担し、必要な数字を継続して確認できる体制を整えることが重要です。
Q2.経理を税理士に任せていれば、資金繰り管理も十分でしょうか?
税理士との契約内容によって異なります。
会計処理や決算申告を依頼していても、日々の入出金予定や将来の資金繰りまで管理しているとは限りません。
資金繰り管理を誰が担当するのか、役割を明確にしておく必要があります。
Q3.資金繰り表は毎日作成しなければいけませんか?
必ずしも毎日作成する必要はありません。
ただし、資金繰りが厳しい会社や支払いが集中する会社では、日別・週別での管理が必要になる場合があります。
まずは月次の資金繰り表を作成し、会社の状況に応じて管理の頻度を調整するとよいでしょう。
Q4.財務担当者がいないと銀行融資の審査で不利になりますか?
財務担当者がいないことだけで融資が難しくなるわけではありません。
銀行は業績、財務内容、資金使途、返済能力などを総合的に確認します。
ただし、経営者が自社の資金繰りを説明できない場合、銀行とのやり取りが難しくなることがあります。
Q5.社長が最初に取り組むべき財務管理は何でしょうか?
まず、現在の預金残高と今後の入出金予定を把握することです。
そのうえで、借入金の返済予定を確認し、向こう3か月以上の資金繰り表を作成することをおすすめします。
まとめ|財務担当者がいなくても、継続的な資金繰り管理はできる
財務担当者がいない中小企業でも、資金繰りを管理する仕組みを作ることは可能です。
重要なのは、社長がすべての経理業務を行うことではありません。
必要な数字を把握し、今後の資金繰りを予測し、資金不足が発生する前に対策を検討できる状態にすることです。
今回説明した7つの方法を振り返ります。
- 預金残高と入出金予定を一覧にする
- 向こう3か月以上の資金繰り表を作成する
- 毎月確認する財務数字を絞る
- 借入金の一覧表を作成する
- 税理士と資金繰り管理の役割を分担する
- 銀行に説明できる資料を毎月整える
- 月に一度、資金繰りを確認する時間を確保する
最初からすべてを実行する必要はありません。
できることから始め、毎月継続することが重要です。
財務管理を日常的な経営業務として定着させることが、資金繰りの安定と銀行との円滑な取引につながります。
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※ご相談はメールで受け付けています。融資の実行や審査通過を保証するものではありません。ご相談内容によっては回答できない場合があります。