「毎月の売上は確認しているが、会社の財務状況まではよくわからない」
「決算書は税理士に任せており、社長自身は数字を詳しく見ていない」
「利益が出ているのに、なぜ資金繰りが苦しいのかわからない」
このような悩みを抱える中小企業経営者は少なくありません。
会社の経営状況を把握するために、社長がすべての会計数字を理解する必要はありません。
しかし、会社の経営判断に直結する重要な財務数字は、社長自身が毎月確認することが大切です。
銀行の法人融資・融資審査でも、会社の売上や利益だけでなく、現預金、売掛金、在庫、借入金、資金繰りなどを確認します。
この記事では、長年にわたり法人融資・融資審査に携わってきた銀行員の立場から、社長が毎月確認すべき7つの財務数字と、その数字を経営改善に生かす方法を解説します。
この記事でわかること
- 社長が毎月確認すべき7つの財務数字
- それぞれの数字が重要な理由
- 数字が悪化した場合の具体的な対策
- 銀行が財務数字をどのように見ているか
- 月次財務管理を習慣化する方法
- 自社の管理状況を確認するチェックリスト
社長が毎月確認すべき財務数字は7項目
中小企業の社長が毎月確認したい財務数字は、次の7項目です。
| 項目 | 確認する目的 |
|---|---|
| 1.現預金残高 | 支払能力を把握する |
| 2.売上高・粗利益率 | 売上と収益性の変化を確認する |
| 3.営業利益 | 本業の利益を確認する |
| 4.売掛金残高 | 売上代金の回収状況を確認する |
| 5.棚卸資産残高 | 在庫に固定された資金を確認する |
| 6.借入金残高・元金返済額 | 借入負担と返済能力を確認する |
| 7.今後3か月の資金繰り | 将来の資金不足を早期に把握する |
これらは単独で見るのではなく、相互の関係を確認することが重要です。
例えば、売上高が増加していても、売掛金がそれ以上に増えていれば、資金繰りが悪化している可能性があります。
1.現預金残高|会社の支払能力を確認する
最初に確認したいのが現預金残高です。
現預金とは、会社が保有する現金と銀行預金を指します。
現預金が十分にあれば、仕入代金、人件費、税金、借入金返済などの支払いに対応しやすくなります。
現預金残高は前月・前年同月と比較する
単に月末の預金残高を見るだけでは、会社の資金繰りが改善しているのか判断できません。
例えば、次の会社を考えます。
| 月末 | 現預金残高 |
|---|---|
| 4月 | 2,500万円 |
| 5月 | 2,200万円 |
| 6月 | 1,800万円 |
この会社は2か月間で現預金が700万円減少しています。
売上や利益が好調であっても、預金残高が減少している理由を調べる必要があります。
ただし、季節的な支払い、設備投資、借入金返済などによる一時的な減少もあります。
現預金が減ったという事実だけでなく、なぜ減ったのかを確認することが重要です。
現預金が減少している場合の対策
- 売掛金の回収状況を確認する
- 在庫が増加していないか確認する
- 借入金の元金返済額を確認する
- 設備投資などの一時的な支出を確認する
- 今後の資金繰り表を作成する
2.売上高・粗利益率|売上が利益につながっているか確認する
売上高は、多くの経営者が毎月確認している数字でしょう。
しかし、売上高だけでは会社の収益性を十分に判断できません。
重要なのは、売上からどれだけの粗利益が残っているかです。
粗利益率の計算方法
粗利益=売上高-売上原価
粗利益率=粗利益÷売上高×100
例えば、月商1,000万円、売上原価700万円の場合、粗利益は300万円、粗利益率は30%です。
翌月、月商が1,200万円に増加しても、粗利益率が25%に低下した場合、粗利益は300万円のままです。
売上は200万円増加しているのに、粗利益は増えていません。
売上増加に伴って人件費や配送費などが増えていれば、利益が悪化する可能性もあります。
粗利益率が低下している場合の対策
- 販売単価が下がっていないか確認する
- 仕入単価や原材料費の上昇を確認する
- 利益率の低い商品・取引先を把握する
- 価格改定や仕入条件の見直しを検討する
なお、売上高や粗利益率には季節変動があるため、前月比だけでなく前年同月比や予算比も確認してください。
3.営業利益|本業で利益を確保できているか確認する
営業利益は、本業でどれだけ利益を生み出しているかを示す数字です。
営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費
販売費及び一般管理費には、人件費、家賃、広告宣伝費、減価償却費などが含まれます。
売上が増加していても、経費がそれ以上に増加していれば営業利益は減少します。
営業利益は月次と累計の両方を見る
月ごとの営業利益には、賞与や季節的な経費の影響が現れる場合があります。
そのため、単月の利益に加え、期首からの累計営業利益を確認することをおすすめします。
例えば、上半期の営業利益計画が600万円で、実績が200万円であれば、計画に対して400万円不足しています。
この段階で原因を調べれば、下半期の改善策を早めに検討できます。
銀行が営業利益を確認する理由
銀行は、会社が本業で安定して利益を確保できているかを重視します。
営業利益が継続的に赤字であれば、会社の収益力に課題がある可能性があります。
ただし、融資審査は営業利益だけで決まるものではありません。経常利益、最終利益、キャッシュフロー、財務内容、資金繰りなども総合して判断します。
4.売掛金残高|売上代金が予定どおり回収されているか確認する
売掛金は、売上として計上されていても、まだ現金で回収されていない代金です。
売掛金が増加すると、その分だけ運転資金が必要になる場合があります。
売掛金回収期間を確認する
売掛金の回収状況を確認する簡便な指標として、売掛金回収期間があります。
売掛金回収期間(月)=売掛金残高÷平均月商
例えば、売掛金残高2,000万円、平均月商1,000万円であれば、回収期間は約2か月です。
この回収期間が2か月から3か月に延びれば、売上規模が変わらない場合、売掛金が約1,000万円増加する計算になります。
その分、資金繰りに負担が生じる可能性があります。
※実務では受取手形や電子記録債権なども含めて確認し、季節変動や取引条件の違いを考慮します。
売掛金が増加している場合の対策
- 得意先別の売掛金残高を確認する
- 入金予定日と実際の入金日を照合する
- 入金遅延を早期に把握する
- 請求書の発行時期を見直す
- 必要に応じて回収条件を協議する
5.棚卸資産残高|在庫に資金が固定されていないか確認する
棚卸資産には、商品、製品、原材料、仕掛品などが含まれます。
在庫は販売するために必要ですが、増えすぎると資金繰りを圧迫する原因になります。
在庫回転期間を確認する
在庫の水準を確認する指標の一つが、棚卸資産回転期間です。
棚卸資産回転期間(月)=棚卸資産残高÷平均月間売上原価
例えば、棚卸資産残高900万円、平均月間売上原価300万円であれば、回転期間は3か月です。
これが4か月、5か月と長期化している場合には、在庫が増加している理由を確認します。
ただし、製造期間の長い業種や季節商品を扱う会社では、適正な在庫期間が異なります。
在庫が増加している場合の対策
- 商品別・製品別の在庫残高を確認する
- 長期間動いていない在庫を把握する
- 仕入計画と販売実績を比較する
- 過剰在庫の削減を検討する
在庫を減らす際には、販売機会を失わないよう、必要な在庫水準を維持することも重要です。
6.借入金残高・元金返済額|返済負担を確認する
会社の借入金については、残高だけでなく、毎月の元金返済額を確認する必要があります。
借入金の元金返済は、原則として損益計算書の費用にはなりません。
しかし、返済すると現金は減少します。
年間返済額と返済原資を比較する
銀行では、返済原資の簡便な目安として、税引後利益と減価償却費の合計などを参考にすることがあります。
返済原資の簡便な目安=税引後利益+減価償却費
例えば、年間の返済原資の目安が800万円、借入金の年間元金返済額が1,200万円であれば、返済負担が重い可能性があります。
ただし、実際の返済能力は売掛金や在庫の増減、設備投資、税金の支払いなどによっても変わります。
また、継続的に必要な運転資金の借換えと、設備資金の約定返済は分けて考える必要があります。
借入金の返済負担が重い場合の対策
- 銀行別の借入金一覧表を作成する
- 年間の元金返済額を把握する
- 利益と資金繰りを改善する
- 必要に応じて借換えや返済条件を銀行に相談する
借入金の適正水準や改善方法については、関連記事でも詳しく説明しています。
7.今後3か月の資金繰り|将来の資金不足を確認する
最後に確認したいのが、今後の資金繰りです。
現預金残高は過去の入出金の結果ですが、資金繰り表は将来の入金と支払いを予測するための資料です。
現在の預金残高が十分でも、翌月や翌々月に大きな支払いが予定されていれば、資金不足が発生する可能性があります。
資金繰り表で確認する内容
- 月初の現預金残高
- 売掛金などの入金予定
- 仕入代金・外注費の支払予定
- 人件費・経費の支払予定
- 税金・社会保険料の支払予定
- 借入金の元金返済・利息支払
- 設備投資の支払予定
- 月末の現預金残高見込み
資金不足が予想された場合
資金繰り表を作成した結果、2か月後に500万円の資金不足が見込まれたとします。
この場合には、資金不足の原因を確認し、売掛金の回収促進、支出の見直し、銀行への運転資金相談などを検討します。
銀行融資には審査や決裁が必要です。資金不足が迫ってからでは、対応できる選択肢が限られる可能性があります。
返済や支払いが難しくなる見込みがある場合には、早めに関係先へ相談することが重要です。
7つの財務数字を組み合わせると会社の問題点が見えてくる
ここまで7つの数字を説明しましたが、実際の経営管理では、複数の数字を組み合わせて確認することが重要です。
ケース1.売上は増えているのに現預金が減っている
この場合には、売掛金や在庫が増加していないか確認します。
売上増加に伴う運転資金の増加が原因であれば、回収・支払条件や必要な資金調達を検討します。
ケース2.利益は出ているのに資金繰りが苦しい
借入金の元金返済、設備投資、売掛金の回収遅延などを確認します。
黒字であっても、利益と現金の動きが一致するとは限りません。
ケース3.売上は横ばいなのに営業利益が減っている
粗利益率の低下や固定費の増加を確認します。
商品別の採算や人件費、外注費などを見直すことが考えられます。
ケース4.借入金が減っているのに預金も減っている
借入金の返済が、会社の資金創出力に対して重すぎないか確認します。
預金残高を減らし続ける返済計画になっている場合には、今後の資金繰りを慎重に見直す必要があります。
銀行融資・資金繰りのメール相談
「売上や利益は把握しているが、資金繰りが苦しい理由がわからない」「借入金の返済負担が重い」「銀行への説明に必要な財務数字を整理したい」といったお悩みはありませんか。
長年の法人融資・融資審査の実務経験を踏まえ、銀行が確認するポイントや、財務数字の整理方法についてメールでご相談をお受けします。
※ご相談はメールでの対応となります。融資の承認・実行や返済条件の変更を保証するものではありません。
社長の月次財務管理は30分から始められる
財務管理を継続するためには、複雑な資料を作ることよりも、毎月同じ数字を確認する習慣をつくることが重要です。
例えば、毎月の試算表が完成した後に、30分程度の確認時間を設ける方法があります。
最初の10分|数字の変化を確認する
現預金、売上高、粗利益率、営業利益、売掛金、在庫、借入金の変化を確認します。
前月比、前年同月比、計画比を見ながら、大きく変動した数字を把握します。
次の10分|変化の原因を確認する
例えば、現預金が減少している場合には、売掛金の増加、設備投資、借入金返済など、原因を調べます。
営業利益が減少している場合には、粗利益率や経費の変化を確認します。
最後の10分|翌月の対応を決める
問題点が見つかった場合には、担当者と期限を決めて対応します。
例えば、「売掛金の入金遅延を確認する」「滞留在庫を調べる」「銀行別の借入金返済予定を整理する」といった具体的な行動に落とし込みます。
なお、30分は確認を始めるための目安です。資金繰りが厳しい場合や財務状況に大きな変化がある場合には、より詳細な分析が必要です。
毎月の財務数字を記録する管理表の例
次のような一覧表を作成すると、数字の変化を確認しやすくなります。
| 確認項目 | 前月 | 当月 |
|---|---|---|
| 現預金残高 | 2,000万円 | 1,800万円 |
| 売上高 | 1,000万円 | 1,100万円 |
| 粗利益率 | 30% | 28% |
| 営業利益 | 100万円 | 70万円 |
| 売掛金残高 | 2,000万円 | 2,300万円 |
| 棚卸資産残高 | 800万円 | 900万円 |
| 借入金残高 | 5,000万円 | 4,950万円 |
| 月間元金返済額 | 50万円 | 50万円 |
| 3か月先の最低月末現預金見込み | 1,500万円 | 1,200万円 |
※数値は説明用の架空例です。月次管理では、売上高・営業利益は単月の実績、現預金・売掛金・在庫・借入金は月末残高として区別して記録します。
この例では、売上高は増加していますが、粗利益率と営業利益が低下し、売掛金と在庫が増加しています。
さらに現預金が減少し、3か月先の預金見込みも悪化しています。
社長としては、売上増加を評価するだけでなく、利益率の低下と運転資金の増加に注意する必要があります。
財務数字の管理状況をチェックしてみましょう
次のチェックリストで、自社の月次財務管理がどこまでできているか確認してください。
確認できている項目にチェックを入れると、確認済みの項目数と進捗バーが更新されます。
社長のための月次財務管理チェックリスト
自社で毎月確認できている項目にチェックを入れてください。
0 / 8項目を確認
※このチェックリストは財務管理の状況を整理するためのものです。チェック数によって会社の安全性や融資の可否を判定するものではありません。
チェックできなかった項目を翌月の課題にする
例えば、売掛金の管理ができていなければ、得意先別の入金予定表を作成します。
借入金の返済額を把握していなければ、銀行別の返済予定表を作成します。
資金繰り表を作成していなければ、まず3か月先までの入出金予定を整理します。
チェックリストを一度確認するだけでなく、毎月繰り返し活用することが重要です。
銀行が評価する会社は財務数字をどのように管理しているか
銀行は、融資先の財務状況を決算書や試算表などから確認します。
しかし、数字が良いか悪いかだけでなく、経営者が会社の現状を把握し、課題に対応しているかどうかも、融資判断の参考になる場合があります。
数字の変化を説明できる
例えば、売掛金が増加した場合に、売上増加によるものなのか、入金遅延によるものなのかを説明できることは重要です。
借入金が増加した場合にも、設備投資、運転資金、赤字補填など、その理由を整理しておく必要があります。
資金繰りの見通しを持っている
銀行への融資相談では、いつ、いくら資金が必要になるのかを説明できることが重要です。
資金繰り表を継続的に作成していれば、必要な資金額と時期を把握しやすくなります。
問題点に対する改善策が具体的である
「売上を増やす」「経費を減らす」という説明だけでなく、どの取引の利益率を改善するのか、どの経費を見直すのかを具体的に示すことが重要です。
ただし、財務管理ができているからといって融資が承認されるわけではありません。銀行は返済能力や財務内容などを総合的に判断します。
社長が毎月確認すべき財務数字に関するよくある質問
Q1.社長は決算書をすべて理解する必要がありますか?
すべての勘定科目を詳しく理解する必要はありません。ただし、売上、利益、現預金、売掛金、在庫、借入金、資金繰りなど、経営判断に直結する数字は把握することをおすすめします。
Q2.毎月の試算表はいつ確認すればよいですか?
月次決算が確定した後、できるだけ早い段階で確認することが望ましいでしょう。試算表の作成に時間がかかる場合でも、預金残高や資金繰りなどは先に確認する必要があります。
Q3.売上が増えていれば経営は順調と考えてよいですか?
売上増加だけでは判断できません。粗利益率や営業利益が低下していないか、売掛金や在庫が増えすぎていないか確認することが重要です。
Q4.利益が出ているのに預金が減るのはなぜですか?
売掛金や在庫の増加、借入金の元金返済、設備投資などによって、利益とは別に現金が減少する場合があるためです。
Q5.財務数字の管理は税理士に任せてはいけませんか?
税理士などの専門家に資料作成や分析を依頼することは有効です。ただし、最終的な経営判断を行うのは社長です。重要な数字と改善課題については、社長自身が把握しておくことをおすすめします。
Q6.財務数字を管理すれば銀行融資を受けやすくなりますか?
財務数字を把握し、資金使途や返済見通しを具体的に説明できることは、銀行との相談に役立ちます。ただし、融資の可否は会社の財務内容や返済能力などによって判断されます。
まとめ|社長が毎月数字を見ることが財務改善の第一歩
社長が毎月確認すべき財務数字は、次の7項目です。
毎月確認したい7つの財務数字
- 現預金残高
- 売上高・粗利益率
- 営業利益
- 売掛金残高と回収状況
- 棚卸資産残高
- 借入金残高と元金返済額
- 今後3か月の資金繰り見通し
重要なのは、数字を確認するだけで終わらせないことです。
数字の変化から原因を調べ、具体的な改善策を実行し、翌月に結果を確認することが必要です。
財務管理とは、決算書を読むこと自体が目的ではなく、会社の問題点を早めに発見し、経営判断に生かすことです。
まずは毎月30分でも、社長自身が財務数字を確認する時間を設けてみてください。
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長年の法人融資・融資審査の経験を踏まえ、銀行が確認するポイントや、資金繰り・借入金管理の考え方についてメールでご相談をお受けします。
※ご相談はメールでの対応となります。融資の承認・実行や返済条件の変更を保証するものではありません。