保証協会付融資の返済の条件変更は、融資を受けている銀行経由で保証協会に条件変更手続きを行うことにより実行されます。
ただし保証協会の条件変更を行うには追加の保証料がかかることに注意が必要です。
この保証料を支払わないと保証協会の条件変更ができません。
目次
ある中小企業の実例
担当先にKK社がありました。
KK社は農業向けの各種飼料を生産・販売している会社です。
地方にいくつかの飼料の生産工場を保有しており、これらに関わる設備投資資金は金融機関の借入で賄っていました。
海外から安価な飼料が出回る影響を受けてKK社の売上は年々減少してきました。
これに比例して資金繰りも悪化し、設備投資に伴う借入の返済負担がKK社の資金繰りに大きな負担となっていました。
そのためKK社からは定期的に追加融資の要請があり、最初のうちは当行もこの融資要請に応じてKK社の資金繰り支援を行ってきました。
しかしこの間もKK社の業績は悪化し、資金繰りにひっ迫感がさらに増加してきました。
このためKK社からは従来以上に多い追加融資支援の要請がありましたが、もうこれ以上当行としても追加融資にて資金繰りを支援することには限界がありました。
そのため私はKK社にリスケによる資金繰り維持を提案しました。
条件変更による資金繰りの安定を提案
中小企業社長とのやり取り
当方:「先日ご融資の相談をいただきましたが、御社の業績の回復が見られない中で当行としてもこれ以上の追加融資は出来ません」
先方:「それは困りました。融資が受けられないとなると今まで続けてきた返済が出来なくなります。銀行さんはそれでも良いのですか」
当方:「返済はしていただかないと困ります。しかし御社の資金繰りの実態から返済を続けることは非常に難しいものと私も考えています。社長、どうでしょうか。一定期間元金の返済を止めて返済負担を軽減されてはいかがでしょうか。これも一種の融資とお考えください。追加融資の代わりに返済を一定期間止めるのです。返済が止まることは一種の融資と同じ効果があります」
先方:「理屈はわかります。しかし一度条件変更を行うとこの先新規の融資が受けられなくなるでしょ。これから売上を上げていくためには資金が必要でそれは銀行さんからの借入に頼るしかありません。融資が受けられなければ売上の回復すら出来なくなります」
当方:「確かに条件変更を行うと少なくとも条件変更を行っている期間は追加の融資は原則として難しくなります。しかし未来永劫、新規の融資が出来ないということではありません。現に過去に条件変更をされた会社さんで今ではそれ以前の同様に新規融資を行っている取引先もありますから」
先方:「すぐには決断出来ません。いつになれば新規の融資が受けられるようになるのかわからない状態で安易に条件変更をする気持ちにはなりません。しばらく考えさせてください」
条件変更には不利益もあることからお客さんはすぐには条件変更に応じない
保証協会への条件変更手続き
KK社宛の融資は保証協会付の融資です。
保証協会付の融資の条件変更を行うには融資をしている銀行だけではなく保証協会にも条件変更の手続きを行う必要があります。
ただ保証協会への条件変更の手続きは銀行経由で行うことができ、別途保証協会に個別に条件変更の手続きを行う必要がありません。
保証協会の条件変更には追加の保証料支払いが必要
基本的に銀行経由で保証協会に条件変更の手続きを行うことにより保証協会は条件変更に同意をします。
ただし注意をしなければならないことは保証協会に条件変更を行う際には追加の保証料の支払いが発生するということです。
保証協会付融資を利用するには融資実行時に保証協会に保証料を支払っています。
この保証料は保証協会の定める計算式により金額が決まるのですが、計算される保証料はあくまでも融資を当初の条件通りに返済していくことを前提にしています。
わかりすい例で説明をします。
1,000万円の保証協会付融資を期間1年で利用するとします。
この場合、1,000万円の融資を利用する際に保証協会に1年分の保証料を支払うこととなります。
その後、途中で条件変更を行い半年間は利息のみの支払いとし返済をストップするとします。
そうすると少なくとも半年間は融資期間が延びる計算となります。
つまりトータルの融資期間が1.5年になるということです。
しかし保証協会には当初の1年分の保証料しか支払っていません。
そのため延びた半年分の保証料を条件変更時に支払う必要があるのです。
この追加の保証料を支払わないと保証協会の条件変更に同意をしてくれません。
保証協会の条件変更を行うには追加の保証料を支払う必要がある
手遅れとなり条件変更ができない危険
KK社の社長はなかなか条件変更に首を縦に振りませんでした。
とにかく今まで通りに追加の融資を受けつつ業績の回復を期したいという思いが強かったのです。
一度条件変更すれば追加の融資の道が途絶えてしまうという強い思いも条件変更を決断する足かせになっていました。
私が心配していたのは条件変更の決断をずるずると後にすることで、手遅れになってしまうのではないかということです。
つまり条件変更時の保証協会への追加の保証料の支払いができなくなり条件変更ができなくなってしまう危険です。
資金繰りの悪化が進み保証料を支払う余力がなくなり条件変更ができない危険
KK社の資金繰りは行き詰っていましたが、まだ条件変更に要する保証料は捻出出来る余力がありました。
保証料が支払えるうちにを条件変更を行うことをKK社に進めたのです。
もし保証料が捻出することが出来ないくらい資金繰りが行き詰ってしまえば、もう条件変更すら出来ないことになり、保証協会からの代位弁済や担保処分、資産の差押えなど強制回収の手段しか残らなくなります。
こうなればもう手遅れなのです。
そうなる前にKK社には条件変更を提案したのです。
条件変更ができなくなれば代位弁済や強制回収に進んでしまう可能性がある
手遅れにならないうちに条件変更を説得
KK社の毎月の返済日は月末なのですが、その10日ほど前にKK社の社長から連絡があり、今月末の返済は出来ずに半月ほど返済を待ってほしいというものでした。
KK社の資金繰りは時間の経過とともにさらに悪化してきたのです。
私は延滞の事態の引き金となって資金繰りの詳しい説明を求めるために、銀行に来てほしい旨依頼をしました。
社長に来てもらい上司からも条件変更を提案し社長の背中を押してもらおうと考えたのです。
先方:「申し訳ない。月末にどうしても支払いをしないといけないところがあり、これを優先させてほしい。そのために月末の御行宛の返済は待ってほしい。来月の10日ごろには売上の入金があるので、それまで今月末分の返済は待ってください」
当方:「どうしても支払いをしないといけないという内容は何ですか」
先方:「原材料の仕入先です。実はこの仕入先には資金繰りが厳しくなってすでに買掛けの支払が貯まっています。そのため支払いをしないと原材料の新規仕入が出来なくなってしまうのです。そうなればうちの商売はストップしてしまいます。そのため月末にどうしても支払いをしないといけないのです」
当方:「そうですか。事業はわかりました。ただ私どもの立場上、延滞は良いですよとは言えません。ただ条件変更を行うとなれば月末の延滞は受け入れることが出来ます。
本日社長から伺った内容から推察しますと私たちが感じている以上に資金繰りの悪化が懸念されます。
そのような状況ではたとえ条件変更をしないとしても追加の融資など検討出来る余地はありません。申し訳ないのですがこのような状況です。
すでにご案内はさせていただいておりますが、条件変更には保証協会への追加保証料など費用負担が発生します。本日お持ちいただいた資金繰り表を拝見する限り、まだ条件変更時に必要となる保証料をお支払いをいただける状態にあると思います。
この条件変更に伴う追加の保証料が捻出出来なければ、この先延滞が長期化し、本意ではないですが強制回収や保証協会からの代位弁済などの手続きに入っていくしかありません。
そうなれば社長しても非常に苦しい立場になってしまうと思います。
今のうちに条件変更をして一旦資金繰りを維持・安定させ、そして売上回復に専念されればいかがでしょうか」
先方:「そうですか。わかりました。条件変更をお願いすることにします。今までかんばってきたのですがここまで資金繰りが悪化するとは想像してませんでした。残念ですがそれしか道がないようですね」
以前担当していたKK社以外の取引先の中で資金繰りが底をついてしまい、条件変更時の追加の保証料が捻出出来ずに延滞長期化、保証協会による代位弁済となってしまった経験がありました。
その後その取引先はどうなったのか不明ですが、代位弁済などとなればこの先も金融機関との取引を正常化することは真に困難となります。
そうならないようにKK社にはまだ余裕がある時点で条件変更を決断してもらい、業績の回復を期してもらうことにしました。
保証協会の条件変更と保証料についてのまとめ
以上、保証協会の条件変更と保証料の追加支払いについてまとめますと次のようになります。
まとめ
・保証料が支払えないと保証協会は条件変更に応じてくれない
・したがって条件変更はまだ資金繰りに余力があるうちに行うことが大切
・資金繰りが底を付いてしまっては保証料の支払いができずに条件変更ができなくなる