銀行融資の基本・審査

紐付き融資とは?銀行が受注案件に融資する仕組みと審査のポイント

銀行融資には「紐付き融資」と呼ばれる融資の考え方があります。

紐付き融資とは、特定の受注案件や契約に必要な資金を対象として、その契約代金の回収によって返済することを想定した融資です。

例えば、2,000万円の仕事を受注したものの、代金が入金されるまでに外注費や人件費など1,300万円の支払いが必要になる場合があります。

このような場合に、受注した仕事を完成させるための資金として銀行から融資を受け、売上代金が入金された際に返済する方法が考えられます。

紐付き融資は、通常の運転資金融資とは異なり、特定の受注案件と返済原資が明確であることが特徴です。

そのため、通常の追加融資が難しい場合でも、受注内容や代金回収の確実性によっては融資を検討してもらえる可能性があります。

この記事では、紐付き融資の仕組み、具体例、メリット、銀行の審査ポイント、申込時の注意点について、融資担当銀行員の立場からわかりやすく説明します。

紐付き融資とは

紐付き融資とは、特定の受注や契約に紐付けて行う銀行融資のことです。

通常の運転資金融資は、会社全体の仕入代金や人件費など、日常的な事業活動に必要な資金を対象とすることが多くなります。

一方、紐付き融資では、ある特定の受注案件について、その仕事を完成させるまでに必要な資金を融資対象として検討します。

そして、受注先から代金が入金された際に、その入金資金を主な返済原資とすることが特徴です。

紐付き融資とは、特定の受注や契約に必要な資金を融資し、その契約代金の回収によって返済することを想定した融資

なお、「紐付き融資」は融資実務で使われる表現であり、すべての銀行で同じ名称や商品として取り扱われているわけではありません。

銀行によっては、個別の受注案件に対応する短期運転資金融資などとして取り扱う場合があります。

紐付き融資の具体例|WEBデザイン会社の受注案件

紐付き融資の仕組みを理解するために、実際の融資相談をもとにした事例を紹介します。

通常の運転資金融資を受けた会社からの相談

あるWEBデザイン会社に対して、運転資金の融資を実行しました。

この会社は売上が順調に伸びており、それに伴って外注費や人件費などの立替負担が増加していました。

そこで、資金繰りを安定させるために銀行から運転資金融資を受けたのです。

融資実行後、社長からは「これで当面の資金繰りに不安はなくなりました」との話がありました。

しかし、その一方で次のような質問を受けました。

「当社の融資枠は、これで当面いっぱいでしょうか?」

詳しく事情を聞くと、2~3か月後に会社としては大きな受注案件が控えているとのことでした。

正式に受注できた場合、現在の借入金だけでは、その案件に必要な資金を賄えない可能性があるというのです。

資金を確保できなければ、大きな仕事を受注すること自体をためらってしまいます。

このような場合に検討できる融資方法の一つが紐付き融資です。

受注額2,000万円、必要資金1,300万円のケース

具体的な数字で考えてみます。

WEBデザイン会社が、1月に2,000万円の大型案件を受注したとします。

契約内容は次のとおりです。

項目 内容
受注金額 2,000万円
受注時期 1月
納品時期 7月
売上代金の回収予定 8月
案件に必要な外注費など 1,300万円

この会社は、8月に2,000万円の代金を回収する予定ですが、それまでに外注費や人件費など1,300万円の支払いが必要です。

受注した仕事が利益を生む見込みであっても、代金の入金前に支払いが発生するため、資金繰りが不足する可能性があります。

そこで銀行に対し、この受注案件に必要な1,300万円を対象とする融資を申し込みます。

銀行が受注内容や必要資金、代金回収の確実性などを審査し、融資可能と判断すれば、紐付き融資として資金を調達できる場合があります。

紐付き融資の返済方法

このケースでは、8月に受注先から2,000万円の代金が入金される予定です。

銀行は、その代金回収を主な返済原資として融資を検討します。

例えば、1月に1,300万円を借り入れ、8月の代金回収時に元金1,300万円を一括返済する方法が考えられます。

ただし、融資実行の時期は実際の支払予定に応じて決まるため、必ず受注時点から融資を受けるわけではありません。

また、利息の支払時期や返済期日は融資契約によって異なります。

紐付き融資の重要な特徴は、特定の受注案件に必要な資金を対象とし、その案件の代金回収を返済原資として考える点です。

紐付き融資と通常の運転資金融資の違い

紐付き融資も、資金使途という点では運転資金の一種として考えることができます。

ただし、一般的な運転資金融資と比較すると、融資の対象や返済原資の考え方に違いがあります。

比較項目 紐付き融資 一般的な運転資金融資
融資対象 特定の受注・契約 会社全体の運転資金需要
必要資金の確認 案件ごとの支払予定を確認 売掛金・在庫・買掛金などを確認
主な返済原資 対象案件の売上代金回収 事業全体の資金回収やキャッシュフロー
融資期間 対象案件の代金回収時期を考慮 資金需要や融資条件によって異なる
銀行の審査 案件の確実性と融資先の返済能力を確認 会社全体の業績や返済能力を確認

紐付き融資では、対象となる受注案件が明確なため、銀行は資金の必要性や返済予定を具体的に確認しやすいという特徴があります。

もっとも、紐付き融資であっても会社全体の財務内容や返済能力の審査が不要になるわけではありません。

紐付き融資のメリット

紐付き融資には、主に次のようなメリットがあります。

紐付き融資のメリット

1.通常の追加融資が難しい場合でも、個別案件として検討してもらえる可能性がある
2.受注案件と返済原資が明確なため、銀行が融資を検討しやすい場合がある
3.大型受注に伴う一時的な資金不足に対応できる可能性がある

1.通常の融資とは異なる観点で追加融資を検討してもらえる

銀行は、融資先の事業規模や業績、財務内容などを踏まえ、融資金額を判断しています。

そのため、すでに相応の借入金がある会社では、通常の運転資金として追加融資を受けることが難しい場合があります。

しかし、特定の受注案件に必要な資金であり、代金回収による返済が見込まれる場合には、通常の運転資金とは異なる観点で追加融資を検討できることがあります。

例えば、会社全体の運転資金はすでに確保できていても、大型案件を受注したことによって一時的に追加資金が必要になる場合です。

このようなケースでは、受注契約や資金繰りの内容を銀行に説明することで、融資を検討してもらえる可能性があります。

ただし、紐付き融資に法律上の独立した融資枠があるわけではなく、既存の融資限度額とは別に必ず借りられるという意味ではありません。

銀行は、既存借入金も含めた総合的な与信判断を行います。

紐付き融資は、特定の受注案件と返済原資が明確であれば、通常の運転資金とは異なる観点で追加融資を検討してもらえる場合がある

2.業績が多少悪くても融資を検討できる場合がある

紐付き融資では、対象案件の代金回収が返済原資として想定されます。

そのため、会社全体の業績が多少悪い場合でも、受注案件の内容や代金回収の確実性などによっては融資を検討できる場合があります。

例えば、直近の決算では利益が少なかったとしても、信用力のある取引先から確定した受注を獲得し、その案件に必要な資金と回収予定が明確であれば、銀行にとって判断材料になります。

ただし、赤字や債務超過があっても必ず融資を受けられるということではありません。

銀行は、受注先からの代金回収が遅れた場合にも対応できるかなど、融資先自身の返済能力も確認します。

紐付き融資は返済原資が具体的であることが審査上の判断材料になるが、融資先自身の財務内容や返済能力の確認も必要

3.大型受注による資金不足に対応できる

大型案件を受注すると、売上が増加する一方で、外注費や材料費などの支払いが先行することがあります。

売上代金の回収までの期間が長いほど、会社の資金繰り負担は大きくなります。

紐付き融資を利用できれば、受注案件に必要な資金を調達し、売上代金の回収までの資金繰りを支えることができます。

特に、建設業、製造業、システム開発業、WEB制作業など、受注から納品・代金回収までに時間がかかる事業では、検討する価値がある融資方法です。

紐付き融資で銀行が審査する5つのポイント

紐付き融資を銀行に申し込む場合には、受注案件の内容や返済原資を具体的に説明することが重要です。

1.受注や契約が確定しているか

銀行は、対象となる受注案件が正式に決まっているかを確認します。

例えば、正式な契約書や発注書があれば、受注内容を確認しやすくなります。

一方、受注の見込みがあるという段階では、正式に契約が成立している場合と比べて、融資の判断が難しくなることがあります。

銀行としては、融資の対象となる契約が実際に履行される可能性を確認する必要があるためです。

2.受注先の信用力

紐付き融資では、受注先からの代金回収が重要な返済原資になります。

そのため、銀行は受注先の信用力にも関心を持ちます。

例えば、受注先の経営状態が悪く、代金の回収に不安がある場合には、融資審査も慎重になります。

反対に、受注先の支払能力が高く、代金回収の確実性が高いと判断できる場合には、融資を検討するうえでプラスの材料になります。

3.受注案件に必要な資金の金額

銀行は、受注金額だけでなく、その仕事を完成させるためにいくらの資金が必要なのかを確認します。

例えば、受注金額が2,000万円であっても、必要な外注費や材料費などが1,300万円であれば、まずはその支払予定が検討の対象になります。

ただし、必要経費の全額がそのまま融資可能額になるとは限りません。

自己資金、前受金、支払時期などを踏まえて、実際に不足する資金額を確認します。

紐付き融資では、受注金額そのものではなく、代金回収までに必要となる資金を具体的に示すことが重要です。

4.代金回収の時期と確実性

銀行は、受注先からいつ代金が入金されるのかを確認します。

例えば、7月に納品して8月に代金が入金される契約であれば、その入金時期に合わせた返済方法が検討されます。

ただし、検収条件や契約内容によっては、代金の入金時期が変更になる場合もあります。

そのため、銀行は契約上の支払条件や代金回収の確実性を確認します。

5.融資先自身の財務内容と返済能力

紐付き融資は特定の受注案件を対象としますが、銀行は融資先自身の財務内容も審査します。

例えば、受注先からの代金入金が遅れた場合や、案件の採算が悪化した場合でも、返済を継続できるかどうかが重要になります。

既存の借入金の返済状況、利益、資金繰りなども確認されます。

紐付き融資を銀行に申し込む際の必要書類

紐付き融資を相談する場合には、受注案件の内容と資金の必要性を説明できる資料を準備することが重要です。

銀行によって必要書類は異なりますが、次のような資料が考えられます。

書類 銀行が確認する内容
受注契約書・発注書 受注内容、契約金額、契約の成立状況
見積書・原価計算資料 案件に必要な経費や採算
支払予定表 外注費や材料費などの支払時期
入金予定表 受注先からの代金回収予定
資金繰り表 融資が必要な金額と時期
決算書・試算表 会社全体の財務内容と返済能力

受注契約書だけでなく、支払いと入金の時期を整理した資金繰り表を準備すると、銀行に資金の必要性を説明しやすくなります。

紐付き融資を利用する際の注意点

紐付き融資にはメリットがありますが、注意すべき点もあります。

受注がキャンセルされる可能性

受注契約が成立していても、契約の解除や仕様変更などによって、当初予定していた代金を回収できなくなる可能性があります。

その場合、予定していた返済原資が不足することがあります。

銀行はこうしたリスクも考慮して融資を審査します。

代金回収が遅れる可能性

受注先からの代金回収が予定より遅れる場合があります。

例えば、8月に入金される予定だった代金が10月に変更になれば、融資の返済期日との間にずれが生じる可能性があります。

返済期日までに資金を確保できない見込みとなった場合には、早めに銀行へ相談することが重要です。

受注案件の原価が増加する可能性

受注案件の進行中に外注費や材料費が増加することがあります。

当初1,300万円と見込んでいた必要資金が1,500万円に増加すれば、追加で200万円の資金が必要になります。

そのため、受注案件の原価や資金繰りを継続的に管理することが重要です。

売上代金が入金されても全額を返済に使えるとは限らない

受注先から2,000万円の代金が入金されても、その全額が自由に使える資金とは限りません。

未払いの外注費や税金など、別の支払いが残っている場合があるためです。

銀行は、対象案件の代金回収後に必要な支払いも含めて、返済可能性を確認します。

紐付き融資についてよくある質問

紐付き融資はどの銀行でも利用できますか?

紐付き融資という名称の融資商品が、すべての銀行に用意されているわけではありません。

ただし、特定の受注案件に必要な短期運転資金として融資を検討できる場合があります。

取引銀行に受注内容と必要資金を説明して相談することが重要です。

紐付き融資は通常の融資枠とは別に借りられますか?

特定の受注案件と返済原資が明確である場合には、通常の運転資金とは異なる観点で追加融資を検討してもらえることがあります。

ただし、独立した融資枠が必ず設定されるわけではありません。

銀行は既存借入金も含めて総合的に融資の可否を判断します。

赤字決算でも紐付き融資を受けられますか?

赤字決算であっても、受注案件の内容や代金回収の確実性などによっては、融資を検討できる場合があります。

ただし、赤字であっても必ず融資を受けられるという意味ではありません。

銀行は会社全体の資金繰りや返済能力も確認します。

紐付き融資の返済方法は一括返済ですか?

受注先からの代金回収を返済原資とする場合には、代金回収時に元金を一括返済する方法が考えられます。

ただし、実際の返済方法は銀行との融資契約によって異なります。

受注が正式に決まる前でも紐付き融資を申し込めますか?

受注前の段階でも、銀行へ資金調達の相談をすることはできます。

ただし、正式な契約が成立していない場合には、受注の確実性を確認できないため、融資実行の判断が難しくなることがあります。

大型案件の受注を予定している場合には、早めに取引銀行へ相談しておくとよいでしょう。

紐付き融資のまとめ

紐付き融資とは、特定の受注や契約に必要な資金を対象として、その契約代金の回収によって返済することを想定した融資です。

通常の運転資金融資と比べて、融資の対象となる案件や返済原資が明確であることが特徴です。

そのため、通常の追加融資が難しい場合でも、受注案件の内容や代金回収の確実性によっては融資を検討してもらえる可能性があります。

ただし、必ず別枠で融資を受けられるわけではなく、銀行は融資先の財務内容や返済能力も確認します。

紐付き融資のまとめ

・紐付き融資は特定の受注や契約に必要な資金を対象とする融資
・対象案件の代金回収を主な返済原資として考える
・通常の運転資金とは異なる観点で追加融資を検討してもらえる場合がある
・受注内容、必要資金、代金回収の確実性が審査上重要になる
・融資先自身の財務内容や返済能力も審査される

大型案件を受注する予定があり、代金回収までの資金が不足する場合には、受注契約や資金繰りの内容を整理し、紐付き融資の考え方で取引銀行に相談してみることをおすすめします。

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