銀行融資の基本・審査

銀行融資の返済能力はどう判断される?返済原資の計算方法と審査事例を銀行員が解説

銀行に融資を申し込む際、「絶対に返済できるので融資をしてください」と説明する経営者がいます。

返済する意思が強いことは大切ですが、銀行融資の審査では、それだけで融資を受けられるわけではありません。

銀行が確認するのは、実際に融資を返済できる見込みがあるかどうかです。

銀行融資の返済能力は、経営者の自信や返済の約束だけでなく、利益、キャッシュフロー、資金繰り、既存借入金の返済負担などをもとに判断されます。

銀行融資の返済能力を判断する3つのポイント

  1. 事業からどれだけの返済原資を生み出せるか
  2. 既存借入金と新規融資の返済額を賄えるか
  3. 返済を続けられるだけの資金繰りと収益見通しがあるか

例えば、税引後当期純利益が500万円、減価償却費が300万円の会社では、簡易的な返済原資は年間800万円と計算できます。

ただし、年間返済額が700万円であれば、単純計算上の余裕は100万円しかありません。銀行は、こうした数字に加え、今後の資金繰りも確認します。

この記事では、銀行の法人融資業務に長年携わってきた立場から、銀行が返済能力を重視する理由、返済原資の計算方法、赤字企業の融資審査、返済能力を銀行に説明する方法を解説します。

また、実際に経験した歯科医院からの融資相談事例も紹介します。

銀行融資の審査で返済能力が重視される理由

銀行の融資審査で重要なのは、融資したお金が約束どおりに返済される見込みがあるかどうかです。

銀行は融資によって利息収入を得ていますが、融資先が返済できなくなれば、貸倒損失が発生する可能性があります。

例えば、銀行が1,000万円を年利2%で融資した場合、借入残高が1年間変わらないと仮定すると、年間の利息は20万円です。

一方、融資金が回収できずに大きな貸倒損失が発生すれば、利息収入を大きく上回る損失となる可能性があります。

そのため、銀行は融資の審査において返済能力を慎重に確認します。

銀行が返済能力を判断する主な項目

銀行は、主に次のような項目を確認します。

  • 過去の決算内容と利益の推移
  • 直近の試算表による足元の業績
  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 既存借入金の残高と年間返済額
  • 今後の売上や利益の見通し
  • 預金残高と資金繰りの状況
  • 融資金の資金使途と返済計画

銀行は、これらの情報を総合的に確認して融資の可否を判断します。

したがって、単に「返済できます」と説明するだけでなく、なぜ返済できると考えているのかを数字で示すことが重要です。

「絶対に返せるから大丈夫」だけでは融資を受けられない

銀行の融資担当者として仕事をしていると、経営者から「絶対に返せるから大丈夫です」と言われることがあります。

今回紹介する歯科医院の先生からも、同じような説明を受けました。

しかし、銀行は返済の約束だけで融資の可否を判断することはできません。

返済する意思と返済能力は異なる

経営者が返済する意思を持っていることは大切です。

しかし、返済する意思があっても、会社や事業から十分な資金が生み出されなければ返済は難しくなります。

例えば、毎月30万円の借入金返済が必要な会社を考えてみましょう。

経営者がどれだけ「必ず返済します」と説明しても、毎月の資金繰りで返済資金を確保できなければ、約束どおりの返済は困難です。

銀行が知りたいのは、返済する意思があるかどうかだけではありません。

事業からどれだけの資金を生み出すことができ、その資金で借入金を返済できるのかという点です。

経営者の人柄や経営姿勢も審査の判断材料になる

銀行は経営者の資質や経営姿勢も確認します。

例えば、次のような点です。

  • 自社の経営課題を正確に把握しているか
  • 業績改善に向けた具体的な行動を取っているか
  • 銀行に対して正確な情報を提供しているか
  • 資金繰りや借入金の返済状況を把握しているか

ただし、経営者の人柄が良いことと、借入金を返済できることは同じではありません。

銀行融資では、経営者の資質と客観的な返済能力の両方を確認する必要があります。

銀行融資の返済原資とは?計算方法を解説

銀行が融資の返済能力を判断する際に重要となるのが、返済原資です。

返済原資とは、借入金の返済に充てることができる資金のことです。

通常の事業融資では、事業活動から生み出される資金が重要な返済原資となります。

返済原資の簡易的な計算式

銀行が返済能力を検討する際には、簡易的な目安として次の計算式を使うことがあります。

簡易的な返済原資の計算式

返済原資=税引後当期純利益+減価償却費

減価償却費は、会計上の費用であっても、計上した時点で同額の現金支出が発生するものではありません。

そのため、税引後当期純利益に減価償却費を加えた金額が、簡易的な返済原資の目安として使われます。

ただし、実際の返済能力をこの計算式だけで判断することはできません。

返済原資800万円の計算例

例えば、次のような会社を考えます。

項目 金額
税引後当期純利益 500万円
減価償却費 300万円
簡易的な返済原資 800万円

この会社の簡易的な返済原資は、次のように計算できます。

500万円+300万円

=800万円

この会社では、年間800万円が簡易的な返済原資の目安となります。

ただし、この800万円が、そのまま借入金の返済に使える現金を意味するわけではありません。

売掛金や在庫の増減、買掛金の支払状況、設備投資などによって、実際の資金繰りは変わるためです。

銀行は、この計算結果を一つの目安としながら、資金繰りやキャッシュフローなども確認します。

利益とキャッシュフローは同じではない

銀行融資の返済能力を考えるうえでは、利益とキャッシュフローの違いを理解することが重要です。

例えば、商品を販売して売上と利益が計上されても、売掛金の回収がまだであれば、その売上代金は現金として入金されていません。

また、在庫が増加した場合には、利益が出ていても仕入代金の支払いによって資金が減少することがあります。

そのため、黒字であっても資金繰りが厳しくなる場合があります。

反対に、会計上は赤字でも、減価償却費の負担が大きいことなどから、一定の現金収支を確保している場合もあります。

借入金の返済は、利益という会計上の数字ではなく、実際に確保できる資金から行う必要があります。

返済原資と年間返済額を比較する【具体例】

銀行は、会社が生み出す返済原資と借入金の年間返済額を比較して、返済能力を検討します。

この際、新たに申し込む融資だけでなく、既存借入金の返済額も確認することが重要です。

返済原資800万円・年間返済額700万円の場合

例えば、次のような会社を考えます。

項目 金額
税引後当期純利益 500万円
減価償却費 300万円
簡易的な返済原資 800万円
既存借入金の年間元金返済額 500万円
新規融資の年間元金返済額 200万円
年間元金返済額の合計 700万円

この場合、簡易的な返済原資800万円に対して、年間元金返済額の合計は700万円です。

返済原資と年間返済額の比較

800万円-700万円

=100万円の余裕

簡易的な計算では、年間元金返済額を上回る返済原資があることになります。

ただし、余裕額は100万円にとどまります。

売掛金の回収遅延や設備の修繕などが発生すると、資金繰りが厳しくなる可能性があります。

また、借入金の利息や今後必要になる設備投資なども考慮する必要があります。

そのため、銀行は返済原資と年間返済額の単純な比較だけで融資の可否を決めるわけではありません。

返済原資が年間返済額を下回る場合

例えば、簡易的な返済原資が500万円で、年間元金返済額が800万円の場合を考えます。

この場合、単純計算では年間300万円の不足が生じます。

返済原資500万円-年間元金返済額800万円

=マイナス300万円

銀行は、その不足分をどのように補うのかを確認します。

一時的な要因で返済原資が減少しているのか、今後の業績改善によって回復する見込みがあるのかなどが重要です。

また、返済負担が重い場合には、借入金の返済条件を見直す必要があることもあります。

返済原資が年間返済額を下回っている場合には、単に「返済できます」と説明するのではなく、不足する返済資金をどのように確保するのかを示す必要があります。

返済原資が年間返済額を上回れば融資は通るのか

返済原資が年間返済額を上回っていても、必ず融資を受けられるわけではありません。

銀行は、次のような点も確認します。

  • 売掛金の回収遅延が発生していないか
  • 在庫が過大になっていないか
  • 今後、大きな設備投資や修繕が必要にならないか
  • 利益やキャッシュフローが継続して確保できるか
  • 借入金の返済時期に十分な現預金があるか

返済原資の計算は重要ですが、実際の資金繰りや今後の事業見通しと合わせて考えることが必要です。

赤字でも返済能力があれば銀行融資を受けられる場合がある

赤字の会社は銀行融資を受けられないと考える経営者もいるかもしれません。

しかし、赤字であるという理由だけで、すべての銀行融資が認められなくなるわけではありません。

銀行は、赤字の原因や今後の業績見通し、資金繰りなどを確認します。

一時的な赤字の場合

例えば、新規設備の導入に伴う一時的な経費の増加などによって赤字となった場合です。

赤字の原因が明確であり、今後の収益回復が合理的に見込まれる場合には、銀行が融資を検討することがあります。

ただし、収益回復の見通しを裏付ける資料が必要です。

単に「来期は黒字になります」と説明するだけでは、銀行が返済能力を判断する材料として不十分な場合があります。

減価償却費の負担が大きい場合

減価償却費の負担が大きいために会計上は赤字となっていても、事業活動による現金収支が比較的安定している場合があります。

このような場合には、銀行は利益だけでなく、キャッシュフローや資金繰りを確認します。

ただし、減価償却費が大きいということは、将来の設備更新が必要になる可能性もあります。

設備更新資金や既存借入金の返済負担なども考慮する必要があります。

赤字が続き改善の見通しが乏しい場合

一方、赤字が長期間続き、今後の改善の見通しも不明確な場合には、銀行は慎重になります。

赤字によって手元資金が減少している場合には、さらに返済能力への懸念が高まります。

このような場合には、単に融資を受けるだけでは資金繰りの問題を解決できないことがあります。

銀行に対して、赤字の原因と具体的な改善策を説明することが重要です。

実際の融資相談事例|「絶対に返せる」と説明した歯科医院

ここで、私が銀行の融資担当者として経験した歯科医院からの融資相談を紹介します。

ある歯科医院の先生から、融資の申し込みを受けました。

先生は「絶対に返せるから大丈夫なので、融資をしてください」と強く説明されました。

しかし、銀行が融資を判断するためには、返済できるという客観的な根拠が必要です。

歯科医院は約5年間赤字が続いていた

この歯科医院の決算書を確認したところ、約5年間にわたって赤字が続いていました。

また、赤字が続いた影響で、手元資金もかなり少なくなっていました。

今回の融資の申し込みは、赤字によって不足する運転資金を補う目的が大きいと考えられました。

もちろん、赤字の歯科医院であっても、今後の業績改善が合理的に見込まれるのであれば、融資を検討する余地はあります。

しかし、この歯科医院では、今後の業績が回復する具体的な根拠を確認することができませんでした。

周辺の競争環境も厳しくなっていた

さらに、この歯科医院の周辺には新しい歯科医院が開業していました。

そのため、患者数や売上が今後回復するかどうかについても慎重に判断する必要がありました。

銀行としては、先生の返済意思だけでなく、今後の患者数や診療収入、経費、借入金返済などを踏まえて判断する必要があります。

しかし、融資金を返済できるだけの収益回復を裏付ける材料が不足していました。

銀行が融資をお断りした理由

結論として、この歯科医院からの融資申し込みはお断りしました。

その理由は、先生に返済する意思がなかったからではありません。

約5年間の赤字によって手元資金が減少していたことに加え、今後の業績回復を裏付ける具体的な材料が乏しかったためです。

銀行としては、融資を実行しても、返済が難しくなる可能性が高いと判断しました。

この融資相談事例から分かること

経営者が強い返済意思を持っていても、銀行が返済能力を確認できなければ、融資を受けることは難しくなります。

「絶対に返せる」という言葉ではなく、返済できることを客観的に説明できるかどうかが重要です。

銀行に返済能力を説明するための5つのポイント

銀行に融資を申し込む際には、返済能力を具体的に説明することが重要です。

次の5つのポイントを整理しておくことをおすすめします。

1. 過去の業績を説明する

まず、過去の売上や利益の推移を説明します。

利益が増加している場合には、その理由を説明しましょう。

一方、利益が減少している場合には、減少した原因と改善策を説明することが重要です。

例えば、原材料費の上昇によって利益が減少している場合には、販売価格の見直しや仕入条件の改善など、具体的な対応策を示します。

2. 足元の業績を説明する

銀行は過去の決算だけでなく、直近の業績も確認します。

例えば、前期は赤字であっても、今期は売上や利益が改善している場合には、試算表などを使って説明することができます。

ただし、一時的な改善なのか、継続的な改善が見込めるのかという点も重要です。

3. 返済原資を計算する

利益や減価償却費などから、簡易的な返済原資を計算します。

さらに、売掛金や在庫の増減、設備投資などを踏まえて、実際の資金繰りに問題がないかを確認します。

返済原資の計算結果だけでなく、資金繰り表で返済に必要な現金を確保できることを示すと、説明が具体的になります。

4. 既存借入金の返済額を把握する

新規融資の返済だけでなく、すでに借り入れている融資の返済負担も重要です。

銀行は、既存借入金と新規融資を合わせた返済負担を確認します。

そのため、借入金の残高や年間返済額を整理しておくことをおすすめします。

5. 今後の事業計画を説明する

銀行は、過去の業績だけでなく、今後の返済の見通しも確認します。

例えば、受注の増加や新規取引先の獲得、経費削減などによって利益改善が見込まれる場合には、その根拠を示すことが重要です。

単に「売上が増える予定です」と説明するのではなく、受注資料や売上計画などを使って具体的に説明しましょう。

返済能力を銀行に説明する具体例

例えば、1,000万円の設備資金融資を申し込む会社を考えます。

銀行に対しては、次のような説明が考えられます。

銀行への説明例

今回、新しい設備を導入するために1,000万円の融資を希望しています。

前期の税引後当期純利益は500万円、減価償却費は300万円で、簡易的な返済原資は800万円です。

既存借入金の年間元金返済額は400万円であり、今回の新規融資による年間元金返済額は200万円を予定しています。

したがって、年間元金返済額の合計は600万円となる見込みです。

また、資金繰り表を作成し、借入金の返済を行っても事業に必要な手元資金を確保できる計画としています。

この説明では、次の数字を銀行員に示しています。

項目 金額
簡易的な返済原資 800万円
既存借入金の年間元金返済額 400万円
新規融資の年間元金返済額 200万円
年間元金返済額の合計 600万円
単純計算上の余裕額 200万円

このように、返済原資と年間返済額を数字で説明すると、銀行員は返済能力を検討しやすくなります。

ただし、これらの数字だけで融資が認められるわけではありません。

銀行は、実際のキャッシュフローや今後の業績、設備投資の効果なども確認します。

また、融資希望額そのものの根拠も明確にする必要があります。

銀行に返済能力を説明する際に準備したい資料

銀行に返済能力を説明する際には、次のような資料を準備するとよいでしょう。

資料 銀行が確認する主な内容
決算書 過去の売上、利益、財務内容
試算表 直近の業績と利益の動向
資金繰り表 今後の入出金と借入金返済の見通し
借入金返済予定表 既存借入金の残高と年間返済額
事業計画書 今後の売上、利益、資金繰りの見通し
受注資料など 売上や利益の改善見通しを裏付ける根拠

実際に必要となる資料は、銀行や融資内容によって異なります。

銀行に融資を申し込む際には、返済能力を説明するために必要な資料を整理しておくことが重要です。

銀行融資の返済能力に関するよくある質問

銀行は返済能力をどのように判断しますか?

銀行は、決算書や試算表、キャッシュフロー、資金繰り、既存借入金の返済額などを確認して判断します。

過去の業績だけでなく、今後の返済の見通しも重要です。

銀行融資の返済原資はどのように計算しますか?

簡易的な目安として、税引後当期純利益に減価償却費を加えて計算する方法があります。

ただし、実際の返済能力を判断する際には、資金繰りやキャッシュフローなども確認する必要があります。

返済原資が年間返済額を上回れば融資は受けられますか?

返済原資が年間返済額を上回ることは、返済能力を判断するうえでプラスの材料になります。

ただし、それだけで融資が認められるわけではありません。

銀行は資金使途、財務内容、実際の資金繰り、今後の業績見通しなども確認します。

赤字でも銀行融資を受けられますか?

赤字であっても、赤字の原因や今後の業績改善の見通し、返済能力などによっては融資を受けられる場合があります。

ただし、赤字が続き、改善の見通しが乏しい場合には、銀行が慎重になることがあります。

利益が出ていれば返済能力があると判断されますか?

利益が出ていることは重要ですが、それだけで返済能力があると判断されるわけではありません。

売掛金や在庫の増加などによって資金繰りが厳しくなる場合もあるため、銀行はキャッシュフローや資金繰りも確認します。

「絶対に返せる」と説明すれば銀行融資を受けられますか?

返済する意思を伝えることは大切ですが、それだけで銀行融資を受けられるわけではありません。

返済できることを、利益やキャッシュフロー、資金繰りなどの客観的な資料で説明することが重要です。

銀行融資の返済能力のまとめ

銀行融資の審査では、融資したお金が返済される見込みがあるかどうかが重要です。

経営者が「絶対に返せる」と考えていても、銀行はその言葉だけで融資の可否を判断することはできません。

返済能力を説明するためには、利益やキャッシュフロー、既存借入金の返済額、今後の資金繰りなどを整理する必要があります。

銀行融資の返済能力を判断するポイント

  • 銀行融資では返済能力が重要な審査項目になる
  • 返済する意思と返済能力は異なる
  • 返済原資は利益や減価償却費などから簡易的に計算できる
  • 利益とキャッシュフローは同じではない
  • 既存借入金と新規融資の返済負担を確認する
  • 赤字でも改善の見通しによっては融資を受けられる場合がある
  • 返済能力は客観的な資料で説明することが重要

銀行員の立場から申し上げると、融資審査で大切なのは「絶対に返せる」という言葉ではなく、「どのような資金から、どのように返済できるのか」を具体的に示すことです。

銀行に融資を申し込む際には、返済する意思だけでなく、返済できることを客観的な数字と資料で説明できるようにしておきましょう。

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