飲食店を開業するには当たり前ですが資金が必要です。
ところで自己資金ゼロで飲食店を開業することはできるのでしょうか?
結論は可能です。
資金ゼロで飲食店を始める具体的な方法を説明するとともに、資金ゼロのリスクについて融資担当の銀行員が説明をします。
目次
飲食店開業に必要な資金の目安と種類
最初に飲食店を開業するにはどれくらいの資金が必要であるかを整理します。
もっとも飲食店といっても種類などはさまざまですので、飲食店の開業に必要となる資金量も異なってきます。
ここでは銀行に開業資金の融資で相談されるケースの平均的なもので説明をします。
飲食店の開業資金の目安は1,000万円
ずばり飲食店の開業で必要となる資金量は1,000万円です。
飲食店の開業資金1,000万円の内訳
では飲食店の開業資金1,000万円の内訳を説明します。
飲食店の開業資金の内訳
・店舗の内外装や設備に要する費用 750万円
・当面の運転資金 200万円
飲食店の物件取得費
飲食店を開業するには当たり前のことですが、店舗を構えなければなりません。
飲食店の開業で多いケースは店舗を借りるケースです。
店舗を借りるには所有者に対する保証金や礼金、不動産会社に対する仲介手数料、入居前の前家賃の支払いが必要となります。
平均すると店舗を借りるには200万円の資金が必要となります。
店舗の内外装や設備資金
飲食店の開業でもっとも資金が必要となる項目はこの店舗の内装や設備に要する資金です。
飲食店の店舗らしく店舗のなかを準備する必要があります。
また看板など店舗の外においても装飾などが必要となるでしょう。
料理等を作るための厨房施設や食材などを保管しておくための冷蔵庫も必要です。
さらにはお客さんが座る椅子やテーブルも準備をしなければなりません。
このように店舗の内外装や店内の設備に要する資金が飲食店の開業資金においてもっとも高いウエイトを占めます。
当面の運転資金
運転資金とは人件費や食材などの仕入資金、水道光熱費などの経費です。
飲食店を開業していきなり売上が安定することはまずありません。
開業してしばらく売上は低位で推移することがほとんどですし、安定もしません。
しかし人件費や仕入資金、水道光熱費などの経費は常に必要となります。
このための準備として一定の運転資金は用意をしておきたいところです。
資金ゼロから開業を目指す飲食店の資金調達方法とは
それでは自己資金ゼロから飲食店の開業を目指すための資金調達の方法をご紹介します。
ずばり資金調達の方法は金融機関からの開業資金の融資となります。
まずは日本政策金融公庫の開業資金融資
飲食店などの開業にあたって実に多くの事業者が利用しているのが日本政策金融公庫の開業資金融資の利用です。
日本政策金融公庫は政府系の金融機関です。
開業をする事業者の支援制度もしっかりとしています。
開業前からその準備や事業計画の立て方などの経営指導も行ってくれます。
このようなこともあってか開業する事業者の多くは開業資金の調達方法として日本政策金融公庫の開業資金融資を利用しています。
金利などの融資条件も民間の銀行等に比べると有利な条件で設定されています。
開業資金の調達はまずは日本政策金融公庫の開業資金融資
銀行や信用金庫の開業資金融資の利用
政府系の金融機関である日本政策金融公庫のほかに民間の銀行や信用金庫においても開業資金の融資は用意されています。
開業前から資金調達の方法や事業計画の策定方法などの相談もすることができます。
民間の銀行や信用金庫の開業資金融資は一般的に信用保証協会の保証制度を利用した融資形態となります。
信用保証協会は公的機関であり全国の都道府県に設置されています。
事業者が銀行などから融資を受けるにあたり一種の保証人になってくれる存在であり、開業資金だけではなく多くの中小企業や個人事業主が利用をしています。
この信用保証協会においても開業にあたっての各種の相談を行っています。
民間の銀行や信用金庫での開業資金の融資を行っている
日本政策金融公庫と銀行等の併用も可能
なお日本政策金融公庫の開業資金融資と民間の銀行や信用金庫の開業資金融資を併用することもできます。
日本政策金融公庫だけでは開業に必要な資金の全額を審査の問題で調達できないこともあります。
そのため日本政策金融公庫とともに民間の銀行や信用金庫にも開業資金の融資を申し込みをして利用されている事業者も少なくありません。
開業資金融資は日本政策金融公庫と銀行等の併用も可能
望ましい事業計画の作成方法
さて、日本政策金融公庫や民間の銀行・信用金庫を問わず開業資金の融資の申し込みには事業計画書の提出が必要となります。
事業計画書については他の記事で詳しく説明はしませんが、事業計画書の目的は開業後の売上や収益の計画を示し、かつ開業資金の融資の返済が可能であることを銀行等に説明するためです。
実際の事業計画書で望ましくない例
最初に望ましくない事業計画書の特徴をご紹介します。
開業直後から売上が順調に増えて利益も上がる。
お客さんもどんどん入ってくる。
このようなバラ色の事業計画書は望ましいものではありません。
もちろんバラ色になるように開業直後から努力をすることは否定しません。
しかし銀行などの第三者から見ればこのようなバラ色の事業計画書を見せられても信用することはできません。
現実に開業直後から売上がどんどん増えるようなことはまずありません。
開業直後しばらくはなかなか思うように売上は上がらずに少しずつ増えていくということが現実のはずです。
バラ色の事業計画書を銀行などに説明をしても開業資金の融資を受けるための架空で無責任な計画だと思われるだけです。
バラ色の事業計画書は絶対に避けるべき計画です。
望ましくない事業計画書はバラ色の事業計画書
望ましい事業計画書
望ましい事業計画書はバラ色の反対の計画です。
保守的で抑制気味な事業計画書が望ましい事業計画書です。
例えば目標として売上を100とした場合、事業計画書の作成にあたっては売上を100にするのではなく80とか70とか抑制した内容とするのです。
そしてこの抑制した売上で利益を出して開業資金の融資も返済ができるように考えて事業計画書を作成するのです。
このような保守的で抑制的な事業計画書の説明を受けると、銀行等は「しっかり計画を考えている」との高い評価を行いますし、事業者に対する信頼感も生まれます。
銀行に良く見せたいからといってバラ色の事業計画書を作りたいところを踏みとどまって、抑制的な内容にすることが事業計画書の作成のポイントとなります。
売上を8割や7割程度の抑えた事業計画書が望ましい事業計画書
資金ゼロでの飲食店開業のリスク
資金ゼロであっても開業資金の融資を利用することで飲食店の事業を始めることはできます。
しかし資金ゼロの場合にはもちろんリスクもあります。
資金ゼロで飲食店を開業する場合のリスクは大きく2つあります。
開業資金の融資額が多くなる
さきほど飲食店の開業に必要となる資金の平均は1,000万円だと説明をしました。
仮に自己資金が500万円用意できるとすると、開業資金融資で残りの500万円を調達すればよいことになります。
一方で自己資金がゼロであると開業資金融資を全額の1,000万円で借入をする必要が出てきます。
融資額が多ければそれだけその後の毎月の返済額が多くなります。
また利息は融資額に比例して発生しますから、開業資金の融資額が多いほど支払う利息も多くなることになります。
また開業資金の融資が必要な金額である1,000万円全額で審査が通らないこともあります。
この場合には飲食店の開業そのものを諦めなければならなくなります。
資金ゼロであると開業資金融資の借入額が多くなり返済負担が膨らむリスクがあるのです。
資金ゼロであると開業資金融資の金額が多くなり返済負担や利息負担が多くなる
いざという時の資金の余力がない
飲食店を開業したものの、その後に計画通りに売上が増えないといったような事態は十分にありうることです。
しかし売上が思うように上がらない状態においても人件費や家賃、水道光熱費などの経費の支払いは継続します。
つまり資金繰りに窮することとなります。
そして売上が思うように上がらず資金繰りが苦しいからといって銀行などから追加の融資を受けることは困難です。
銀行としては開業資金の融資をしてから間もない状態で、計画通りに事業が進めないからといって不足する資金を支援するために融資を行うという判断はありえません。
手元に自己資金があればその資金を投入して事業を続けることができますが、資金ゼロであれば資金繰りに窮してしまい事業を継続することができなくなります。
事業を継続することができないということは破綻、つまり倒産です。
自己資金の余力がないといざという時の資金繰りの補完がきかずに事業が破綻してしまう
開業資金に関する実際の相談事例
では以下では開業資金に関する実際の相談事例をご紹介します。
開業資金に関する質問
友人と会社を設立し独立を考えています。
会社を設立するにあたり、少なくとも400万円ほどはかかりそうです。
独立するにあたり、他の人は資金をどうしているのでしょうか?
やはりしっかりとお金を貯めてからスタートをしているのでしょうか?
無担保で融資を受けることは可能なのでしょうか?
開業資金融資
銀行や政府系の日本政策金融公庫では開業するにあたっての必要資金を開業資金融資という制度で支援をしています。
もちろん融資ですから審査はありますが、制度上は開業するにあたっての必要資金を多くが融資の対象となっています。
したがってそれほど自己資金を準備しなくとも開業資金融資により起業することは可能です。
自己資金がないと起業が出来ないということはありません。
自己資金の必要性
管理者の実務経験から申し上げますと、開業するにあたっての必要資金は少なからず準備されて独立される方が多いように感じています。
しかしすべて自己資金で賄える方はそう多くはありません。
自己資金も用意はするものの、不足する部分は銀行融資で調達される方が多いと感じています。
しかし自己資金は多ければ多いほど良いです。
それはそれだけ開業資金融資、つまり借入金をしなくとも良いという理由の他にもう1つあります。
実はこちらの方が重要だと思います。
開業後の追加融資はすぐには無理
開業時にあたっての必要資金は開業資金融資により多くを準備することが出来ます。
開業後に事業が計画通りに行けば良いのですが、計画通りに行かないことも想定しておく必要があります。
計画通りに事業が進まない場合には資金繰りが苦しくなることも考えておかなければなりません。
その場合、再び融資が受けられれば良いのですが一般的に開業資金融資を受けた後は少なくとも1年程度は追加の融資を受けることは難しいのが現実です。
そのため資金繰りの不足分は融資ではなくその他の手段で準備をしなければなりません。
このような場合に備えておきたいのが自己資金です。
つまり自己資金は万が一、開業後に計画通りに事業が進まない場合の資金繰りへの備えなのです。
もし自己資金がなく資金繰りがショートしまえばその時点で事業はストップしてしまい、多くの場合は破綻、つまり倒産してしまいます。
このような事態を回避するためにもっとも頼りになるのが自己資金です。
したがって開業するにあたっては開業に必要な資金として自己資金を準備するよりも、開業との資金繰り安定のために自己資金を準備することを強くおすすめします。
資金ゼロで飲食店を始める具体的な資金調達方法とはのまとめ
以上、資金ゼロで飲食店を始める具体的な資金調達方法についてまとめますと次のようになります。
まとめ
・多くの事業者が開業資金融資を利用して飲食店を開業している
・一方で資金ゼロであると借入額が増えてその後の返済負担や利息負担が多くなる
・資金ゼロであると計画通りに事業が進まない場合に資金繰りの補完ができない