建設業に対する運転資金の融資において銀行が拘っていることが1つあります。
それは工事代金の入金指定です。
建設業の運転資金と整理と入金指定に銀行が拘る理由を説明します。
目次
建設業の運転資金
建設業の運転資金の発生の仕組みや特徴を1つの具体的な事例に沿って整理しておきます。
A社はBさんという地域の地主さんからビル建設の工事を1億円で受注しました。
A社としては工事原価は8,000万円かかると見込み、この1億円の工事受注により2,000万円の粗利益が確保出来ると計算しています。
A社としてはさっそく工事に取り掛かるつもりです。
建設業で運転資金が必要となる理由
さて、工事を行うにはいろいろものが必要です。
例えば建築資材、工事を行う職人などの作業員、高いところを作業するための足場の確保、外注で依頼する電気工事や内装工事などなど。
そして建築資材を準備したり、人件費を支払ったり、外注に頼んだりなど工事を遂行するためには当然ながら資金が必要となってきます。
これらの必要な資金を工事前に依頼主のBさんから全額受領することが出来れば、A社の資金負担は発生しません。
しかしBさんとしてはビルが完成もしていないのに工事代金を全額払うことにはリスクがあります。
建設工事代金の回収方法
現実には工事代金の回収方法はいろいろあり、工事代金を分割して回収したり工事の完成度合いに応じて回収したりなどしています。
工事代金を分割であれ前払にて回収することが出来ればA社の資金負担は発生しませんが、工事の完成度合いに応じて、あるいは工事完成後に一括して回収する場合であればA社には工事代金を回収するまでの間の材料費や、人件費、外注費などを一時的にせよ負担しなければなりません。
工事代金を回収してから材料費や人件費、外注費などを支払うことが出来ればA社に資金負担は発生しません。
しかし人件費は工事代金を回収した後に支払うことは出来ません。
毎月あるいは毎日人件費の支払いは工事代金の回収前後を問わず発生します。
また外注先への支払いについても工事代金を回収してから支払うのであれば良いのですが、回収する前に外注先に支払う必要がある場合もあるでしょう。
このような場合にはA社に工事代金を回収するまでの間、資金の立替が発生します。
現実的には工事代金を施工前に全額を一括して前払いを受けることはなく、工事代金回収までの間に資金の立替が必ず発生します。
これが建設業の運転資金の発生の仕組みであり、特徴です。
銀行員はこの基本的な考え方に沿って融資を検討しています。
建設業においては工事代金回収までの資金の立替という運転資金の需要が発生する
建設業向け運転資金の融資原則
建設業に対する運転資金の融資において銀行では1つの原則があります。
それは1件の工事毎に運転資金の融資を検討するということです。
建設業の運転資金融資は工事紐付きが原則
建設業に対する運転資金の融資においては銀行は1つの工事毎に運転資金の融資を行うという工事紐付きを原則としています。
その工事で必要となる運転資金を個別に融資するという意味です。
卸売業や製造業に対する銀行の運転資金の融資においては1つ1つの売上毎の運転資金融資とはしていません。
全体でこれくらいの運転資金が必要だということで包括的な運転資金の融資対応をしています。
しかし建設業においては包括的ではなく工事1件毎の個別対応で運転資金の融資を行っています。
運転資金とは売上代金回収までの資金繰りのつなぎですから、本来であれば運転資金の融資は売上1件毎の個別対応とすべきです。
しかし卸売業や製造業など多くの事業においては売上が複数にかつ同時多発的に発生していますから、実務的に売上の1件毎に運転資金の融資対応を行うことは不可能です。
これに対して建設業においては売上、つまり建設工事の受注件数は同時にはそれほど多くはありません。
そのため建設業においては本来の運転資金の融資の原則である売上対応毎の対応となるのです。
また建設業の工事受注額というのは1件毎の金額が多額になる傾向があります。
そのため建設業の運転資金の融資も金額が多額なることも珍しくないため、銀行の融資管理面のこともあり工事毎の対応としているのです。
建設業の運転資金の融資は工事毎の紐付きが原則
建設業の運転資金の融資は工事原価の範囲内
また建設業の運転資金の融資は工事原価の範囲内です。
建設業の運転資金の融資は工事代金回収までの人件費や材料費、外注費といった資金の立替を対象としています。
人件費や材料費、外注費というものは工事の原価です。
そのため建設業の運転資金の融資はこの工事の原価を対象としており、融資の金額は工事原価の範囲内となるのです。
工事代金全額が建設業の運転資金の融資の対象となるわけではありません。
建設業の運転資金の融資は工事原価の範囲内
建設業の運転資金の融資は入金指定が必須
さて、建設業の運転資金の返済原資は回収された工事代金となります。
そこで工事代金がいつ、どのように支払われるかを銀行は必ず確認します。
銀行が建設業宛に運転資金を融資する場合にもっとも注意をすべき点は、工事代金が他に流用されてしまうことです。
例えば他の工事の運転資金や他の金融機関への返済資金に充当されてしまうことです。
運転資金の返済原資である工事代金が他に流用されてしまえば、A社に返済に見合う分の資金力等がなければ運転資金を回収することが出来なくなります。
工事代金受領までの立替資金としてA社に運転資金を融資しているのです。
その工事代金が他の使途に流用されてしまえば、運転資金を確実に回収する手段がなくなってしまうのです。
したがって工事代金が必ず自行の預金口座に入金されるよう、契約書面上において入金口座が自行の預金口座に指定されていることが融資の大前提となります。
これは銀行としては絶対に譲れない一線です。
工事代金の入金が他行の口座が指定されていれば、運転資金の融資は絶対に受けることができません。
工事代金の入金を指定している他の銀行に運転資金の融資を相談すべきです。
建設業の運転資金の融資を受けるにはその銀行に工事代金の入金指定することが必須
建設業の運転資金融資の返済方法
建設業の運転資金の返済原資は工事代金の回収資金ですから、必然的に建設業の運転資金融資の返済は工事代金の回収にあわせて返済を行うこととなります。
工事代金を分割して回収する場合にはその時期にあわせて運転資金の融資の返済も何回に分けての分割返済となります。
工事代金を工事完了後の一括回収の場合は、期限一括返済とするのが原則です。
建設業の運転資金の融資の返済は工事代金回収時期にあわせて一括返済か分割返済となる
建設業向けの運転資金融資では入金指定が必須のまとめ
以上、建設業の運転資金の融資においては入金指定が必須であることをまとめますと次のようになります。
まとめ
・建設業の運転資金の融資は1件毎の工事紐付きとするのが原則
・建設業の運転資金の融資は工事原価の範囲内。工事代金全額ではない。
・建設業の運転資金の融資の返済は回収した工事代金
・建設業の運転資金の融資を受けるには工事代金の入金指定が必須
・建設業の運転資金の融資の返済は工事代金回収時期にあわせて一括返済か分割返済となる