銀行融資の基本 融資審査マンの見方

整骨院からの融資相談

金融機関の融資担当者は日頃から融資先の資金繰りに気を配ることが求められます。
時としては金融機関側から融資の提案を行って、融資先の資金繰りを安定させることも大切です。

新規出店で業容を拡大した整骨院

今回は私が担当しているI社に対する融資案件をご紹介します。
I社は現在10店舗の整骨院を経営する会社です。
現在の社長は2代目で創業者のご長男です。
年齢はまだ若いのですが、非常に人づきあいが良く、金融機関に対しても丁寧な対応を心掛けている経営者です。

積極的な店舗出店で借入金増加

この2代目社長が会社を引き継いだときにI社が展開する整骨院は現在の半数の5店舗でした。
2代目社長は積極的に新店舗の開設に努め、当行も主力銀行として新店舗の開設資金を融資で支援を行いました。
そして現在の10店舗体制になっているのです。
しかし私はここ最近、I社のことが非常に気になっていました。
積極的な店舗開設に対応するために、I社の借入金は増加しており、年間の返済額は3,000万円ほどに膨らんでいました。

もっとも返済が滞っているわけではなかったのですが、景気低迷の影響でI社の周辺業界の他の取引先は業績悪化に苦しんでいます。
当然、I社も業績に苦しんでいるのではないかと懸念していました。
現に当行の預金残高が少しずつ減少しています。
業績が好調であれば預金残高は増加傾向を示すはずです。
預金残高が減少傾向にあるということは、業績が悪化しているが想像されるわけです。
I社の2代目社長からはここしばらくは連絡がなかったのですが、I社の事業は景気の影響を受けやすく、景気が良い時期であればI社の整骨院も順調推移が見込めますが、景気が低迷している現況では、整骨院の経営も決して楽ではないはずです。
競合他社も多い業界です。
当行はI社の積極的な店舗展開を資金面で支えてきたため、融資額も相当に膨らんでいます。
このことも私がI社のことが気になる理由でした。

仮説を立ててI社を検証

私は仮説を立てました。
1.年間返済額4,000万円以上のキャッシュフローをI社は生み出していない
2.現状は預金の取り崩しで対応しているものの、早晩資金は底をつく
3.そうなれば延滞が発生する。延滞が発生してしまったら、もう追加融資の検討は難しくなり、リスケ対応しか道はない
やはりI社は返済負担に苦しんでいた
この仮説をもとに私はI社の2代目社長と面談をしました。
私から現在の整骨院の経営状況や最近の資金繰り状況を確認しました。
その結果、予想通りに2代目社長からは整骨院の経営状況が総じて良くないこと、返済負担が重いため複数に分かれている融資をまとめて返済額を少なく出来ないか、あるいは、当面の資金繰りを安定させるために2,000万円程度の融資が受けられないかという相談をその場で受けました。

延滞やリスケとなる前に

I社の2代目社長の人柄の良さを買っていた私としては、延滞とかリスケといったことは何としても避けたいという思いがありました。
そのために延滞が始まる前に追加融資を行い、当面のI社の資金繰りを維持したいという強い思いを抱くようになりました。
しかしだからといって簡単に融資稟議が通るわけではありません。
I社に対する追加融資は要するに「返済するための資金」を融資するわけです。
原則論から言えば「危ない融資」の部類に入ります。
融資業務の大原則は「貸した金が返ってくるかどうか」です。
この大原則に照らしてI社は最後まできちんと返済出来るかどうか。
これが融資稟議が通るか通らないかの分岐点だと言えます。
短期的に見ればI社の返済能力は脆弱であり、最後まで回収出来るかどうか確信を持つことは出来ません。
ここは長期的に見てI社の総合的な返済能力に不安が少ないことを融資稟議で説明する必要があると私は考えました。

経営者の資質は最も大切

最初に私が確認したのはI社の2代目社長が現在の状況に危機感を抱き、自助努力を検討しているかどうかという点です。
売上の減少を補うためにさらなる新規出店ばかりを計画しているのであれば、私は融資の稟議を起案しなかったでしょう。
2代目社長は私が期待した通り、新規出店は当面中止し、既存店舗の立て直しに注力していく考えを持っていました。
また不採算な店舗はどこなのか、きちんと把握されていました。
経営者の資質に問題はないということです。
中小企業は、イコール経営者と言えます。
経営者の資質が中小企業の生き残りに大きな影響を及ぼします。
どれだけ立派な店舗があり、社員がいても、経営者の資質に問題があれば、簡単に中小企業の経営は行き詰ってしまうものです。
このため私は何はさておき、現在の厳しい状況下を踏まえて2代目社長がどのように考えているのか、その資質を問うたのです。

融資回収の拠り所を確認

つぎに私が確認したのはI社および2代目社長と創業者の資産状況です。
万が一の場合に最後まで回収出来る保全があるかどうかを確認するということです。
幸いに創業者と2代目社長とも一定の不動産を保有しており、ある程度の回収原資が見込まれること、さらにこの不動産を活用した調達余力が認められることが確認出来ました。

上司にも2代目社長を見てもらう

そして最後に私が行ったのが上司を2代目社長に紹介することです。
私自身は2代目社長の資質に問題はないと考えています。
ただし担当者としてどうしても見方に偏りが生じかねません。
その点を客観的に確認する意味で私は上司と2代目社長の面談をセットしました。
上司にも2代目社長の資質に問題がないことを理解してもらえれば、融資稟議が一層書きやすくなる効果も期待してのことです。
このようにして融資稟議の骨格が固まり、その結果、I社に対して希望通りの2,000万円の融資を実行しました。
この資金で当面の資金繰りを安定させていただき、I社の立て直しに2代目社長が注力していくことを期待しています。

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