借入余力とは。
借入余力は銀行の融資判断のキーワードの1つです。
借入余力とは何かをわかりやく説明します。
目次
融資審査における借入余力
融資判断の原点は融資先に返済能力があるかどうかをいう点です。
融資業務は融資を実行するだけではなく最後まできちんと返済いただくことで完結します。
この点において返済能力の有無は融資判断において原点とも言える事柄です。
ところが多くの中小企業には十分な返済能力が認められないのが現実です。
もっとも返済能力がないからといってすぐに融資を諦める必要はありません。
返済能力が不十分な点を補う別の拠り所があれば、融資を前向きに判断することが出来るのです。
ではどのような拠り所を根拠に融資を検討すれば良いと思いますか?
そのキーワードは「借入余力」です。
業績低迷にあえぐS社
通信機器を製造しているS社は全体の受注の7割を大手メーカーに依存しています。
大手メーカー自身の業績低迷からここ数年は同社からの受注が減少しており、これに伴いS社の業績も低迷しています。
加えてS社には製造に関わる設備投資負担が重く、借入金負担も重くのしかかっています。
年間の借入金返済額は30百万円ほどになっており、業績の低迷に伴い、その全額を利益等自己資金で賄うことは困難です。
このため年間返済額相当の30百万円の新たな資金調達が必要で、この調達が出来なければ資金繰りに決定的な支障が発生する状態です。
S社の返済能力は乏しい
つまりS社は返済能力が極めて低い水準で、当然ながら新たな借入金の返済も自己資金で賄う返済能力はないということです。
このような状態でS社からは新たな借入として最近10百万円の融資の申し込みを受けました。
融資判断の原点である返済能力がない状態です。
融資を断るのは簡単です。
私もS社が取引のない新規先であったり、取引歴が浅い先であれば、返済能力が認められないという理由で融資を断っていたかもしれません。
ところがS社は昭和30年代から取引のある顧客でかつ当行は準主力の立場です。
S社の業績は低迷していますが、もともとは大手メーカーの代理店として設立され、このメーカーとの取引基盤は盤石なものがあります。
つまりS社の事業基盤は十分に確立されていたのです。
問題は借入金の返済負担が重いということです。
返済負担が重いということであればリスケも選択肢の1つですが、S社の社長の頭にはリスケの選択肢は全くなく、かつ私もリスケではなく、新たな融資にて当社の資金繰りを維持することだけを考えていました。
その根拠はキーワード「借入余力」です。
借入余力の判断する3つの視点
企業というのは極端な話ですが、それだけ業績が不振であっても、資金が続く限り倒産することはありません。
S社の例でいえば、業績こそ低迷しているものの、その事業基盤は確立されています。
資金繰りをつないでいれば、将来の業績回復が十分に期待出来るのです。
資金繰りをつなぐことが出来るかどうかは「借入余力」にかかっています。
私はこの「借入余力」を3つの視点から判断しています。
その1つ目は信用保証協会の保証余力です。
中小企業の多くは信用保証協会を利用しています。
また信用保証協会の保証が得られればよほどのことがない限りは、ほぼすべての金融機関は融資に応じます。
S社は業歴が古い企業で、設立後まもない時期から信用保証協会の保証制度を利用していました。
このため信用保証協会の利用履歴も長く、信用保証協会もS社のことを十分に理解していました。
ここ数年の経過を見ると、信用保証協会も少なくとも返済進捗分は追加で保証をしています。
このことから、今後も少なくとも返済進捗分は信用保証協会の保証が認可され、融資が受けられる見込みが大なのです。
借入余力の2つ目 担保余力
借入余力の有無を判断する2つ目の視点は担保余力です。
無担保融資にはどの金融機関でも一定の限度額があります。
この限度額を超えて融資を検討するにはやはり担保が必要となってきます。
逆の言い方をすれば担保があれば、無担保の限度額を超えて融資が受けられる可能性があるということです。
S社の場合はどうかというと、製造工場の不動産の他に3つの不動産を保有していました。
当行は製造工場の他にこの3つの不動産を担保に取っています。
前回の融資からの返済進捗分はこの担保に「空枠」が生じています。
つまり担保余力があるわけです。
この担保余力を保全として新たな融資を検討することが出来るのです。
さらに社長は自宅不動産を保有しており、自宅には当行を含めてどの金融機関も担保設定していません。
無傷の自宅不動産があるわけです。
将来、この自宅不動産を担保提供すれば、S社にはまだ融資が受けられる可能性があるのです。
借入余力の3つ目 他行動向
借入余力の有無を判断する3つ目の視点は他行動向です。
S社の資金繰りを当行一行で支えることにはやはり限界があります。
他の金融機関が分担して当社の資金繰りを支える必要があります。
他の金融機関からの融資が受けられるということは調達余力と考えることが出来ます。
S社の取引のある他の金融機関の動向はどうかと言えば、こちらもS社との取引歴は当行と同様に長く、毎年一定の融資を他の金融機関も実施しています。
社長への聴取によれば他の金融機関からの訪問頻度も高く、すでに当行とほぼ同時期に融資の申し込みをされており、前向きな回答をもらっているとのことでした。
今回も他の金融機関がS社に融資を行う期待が十分にあるわけです。
調達余力を判断する3つの視点、つまり①信用保証協会の保証余力②担保余力③他の金融機関の動向のすべてがS社には揃っており、私はS社の借入余力に問題がないと判断しました。
借入余力のまとめ
業績が低迷していても、借入余力を訴えることが出来ると融資の稟議書は比較的容易に組み立てることが出来ます。
おかげさまで融資稟議はすんなりと決裁を得ることができ、その後S社に出向いて融資実行の事務手続きをすることが出来ました。
借入余力の有無は返済能力の有無と並んで重要な融資判断のポイントです。