銀行融資審査でもっとも重要な点は返済能力の面です。
返済能力が認められれば基本的に融資は前向きに検討をし、返済能力が認められなければ融資は基本的に難しくなります。
この返済能力面だけで融資の可否を判断しているわけではありません。
今回は預金が原因で融資の審査が通らない事例を融資担当の銀行員が説明をします。
目次
融資審査の最大のポイント
融資審査の最大のポイントは冒頭でも説明をしましたが、融資が返済できるかどうかの返済能力の見極めです。
万が一、融資が最後まで返済されない事態は貸倒という損失を銀行が被ることとなります。
貸倒という損失は銀行としてはもっとも避けたいところです。
そのためきちんと返済ができるのかどうか、返済能力の見極めは銀行の融資審査の最大のポイントとなります。
銀行の融資審査の最大のポイントは返済能力の見極め
返済能力の見極めは決算書分析が中心
では銀行はどうやって返済能力の見極めを行っているかといいますと、やはりその中心・土台になるのは決算書などの財務書類の分析となります。
この決算書分析により返済能力に懸念がある場合にはその時点で融資の審査が通らないということになります。
決算書分析で返済能力に懸念があればその時点で融資の審査は通らない
預金取引が原因で融資の審査が通らない
このように銀行の融資審査の最大のポイントは返済能力の検証です。
では返済能力が認められると考えれば融資の審査が通るのかと言えば、必ずしもそうではありません。
返済能力が十分であっても融資の審査が通らないことがあります。
返済能力とは別に融資の審査が通らない主な理由に預金取引があります。
以下ではなぜ預金取引が原因で融資の審査が通らないのか、その事例を説明していきます。
返済能力が十分でも預金取引が原因で融資の審査が通らないことがある
融資審査に影響する預金取引とは
融資審査に影響してくる預金取引とは預金口座が動いているということです。
単に定期預金が1億円あればそれで良いのかと言えばそうではありません。
預金口座が動いている、つまり事業活動で預金口座が利用されていることが重要となります。
預金取引とは預金口座が動いていること
融資の審査が通らない事例 売上が他の銀行口座に入金になっている
よくある事例ですが、運転資金の融資をしているにもかかわらず、肝心な売上の入金は他の銀行の預金口座を利用しているケースです。
売上金は融資の返済原資
別に運転資金に限った話ではないのですが、運転資金というのは売上代金が回収されるまでの間の資金繰りのつなぎです。
そのため運転資金は売上代金が回収されれば、一旦、運転資金の需要は収束します。
これを運転資金の融資に置き換えて考えますと、売上代金の入金は運転資金の融資の返済原資となります。
この運転資金の融資をしているにも肝心な返済原資である売上代金が他の銀行の預金口座に入金されていては、銀行としては単純におもしろくありません。
また返済原資が他の銀行の預金口座に入るということですから、融資の保全上もよろしくない事態です。
売上入金をこちらの銀行の預金口座に移すようにお願いをしても、移してもらえない場合には融資を断る、つまり融資の審査が通らない結果になりえます。
売上入金の預金取引がなければ融資の審査が通らないことにつながる
融資の審査が通らない事例 支払が他の銀行口座から行っている
売上入金の反対である仕入代金の支払いや給料の支払いなどが他の銀行口座から行っている場合にも融資の審査が通らない原因となります。
これも運転資金を例にして説明をしますと、運転資金というのは売上代金が回収されるまでの愛大の資金繰りのつなぎでした。
売上代金が回収されるまでに必要となる仕入資金の支払いや従業員への給などの経費の支払いに対応をするのが運転資金の融資です。
資金使途が捕捉できないことも
この各種支払いを他の銀行の預金口座から行っているということは、融資の資金を他の銀行の預金口座に移してそこから支払をするということです。
これでは運転資金の融資が本当に仕入資金の支払いや給与の支払いに使用されたのかどうかがわかりません。
もしかしたら社長の貸付に運転資金の融資が流用されているかもしれません。
このように各種支払いが他の銀行の口座から行われているようでは、運転資金の融資の資金使途の捕捉・確認ができません。
銀行にとって融資の資金使途確認は非常に重要です。
そのため融資の審査が通らないことにもなるのです。
支払いが他の銀行の預金口座から行われていると融資の審査が通らないことにつながる
預金取引がないとリアルな状況がわからない
銀行の融資業務は融資を行うだけでは終わらずに、その融資が最後まで回収されて初めて完結となります。
融資が最後まで回収されるまでの間に融資先の業績が悪化するなどの変動は当然ありうることです。
業績の確認は決算書や試算表などで行うことになりますが、決算書や試算表というのはあくまでも過去の状況です。
現在のリアルな状況を示したものではありません。
そのため決算書や試算表だけでは融資先のリアルな業績を確認することは不十分です。
預金取引でリアルな状況がわかる
この決算書や試算表での業績確認を補うのが預金取引です。
預金取引で売上の入金があれば、その推移をみることで融資先のリアルな業績の状況を推定することができます。
融資取引だけではおもしろくない
またそもそもですが、銀行は融資業務だけを行っているわけではありません。
預金取引や振込などの為替取引、貿易取引などさまざまな業務を行っており、融資業務のそのうちの1つの位置づけです。
銀行としては融資取引をきっかけとして、これら融資以外の取引を行いたいと考えています。
よくある事例に、融資のシェアはメインとか準メインとか上位の位置にあるにもかかわらず、預金口座は売上金の回収とか仕入れの支払などにはまったく利用されておらず、返済のために時々返済金が振り込まれてきたり、返済だけが支払となっている場合があります。
これでは本当の意味でのメインとか準メイン銀行などとは言えません。
ただお金を貸しているだけであり、ただお金を借りているだけです。
そして融資の時だけ「お宅はメインだから」とか話をされる顧客がいます。
こういう顧客から融資を申込みを受けると内心では「経常取引に利用している金融機関に申し込めば」と考えてしまいます。
融資取引だけでは採算が厳しい
銀行も民間会社ですから収益を獲得しなければなりません。
融資より生じる金利収益は銀行の大きな収益の柱です。
ただ融資には必ず貸倒リスクというものがついてきます。
銀行にとって貸倒リスクは大きなコストの1つです。
この貸倒リスクを勘案すると融資の金利収益は思ったほどの収益源にはなりません。
適正な採算を確保するには融資以外の取引が必要
そのため銀行としては適正な採算を確保するために融資取引に加えて、預金取引や振込取引、貿易取引などの融資取引以外の他の取引の獲得を期待しています。
融資取引は他の取引を獲得するためのツールとも言えるかもしれません。
預金が他行では融資に後ろ向き
利用される顧客の側から言えば、お金を借りているところには預金を置きたくないという心理も働くと思います。
現に、銀行は預金口座の動きや平均してどれくらい預金残高があるのかをウォッチしているのも事実です。
ただし預金口座を事業のために利用していただいている顧客に対しては、たとえ返済能力が弱いと考えられても、何とか融資が出来ないか、もっと言えば立場上融資をしなければいけないと銀行融資の審査担当者は考えるものです。
たかが預金取引ですが、されど預金取引です。
預金口座をよく使っていただいている顧客には何とか融資をしようと考えるのが銀行融資審査担当の心理です。
預金が原因で融資の審査が通らないのまとめ
以上、預金が原因で融資の審査が通らないことについてまとめますと次のようになります。
まとめ
・各種支払いが他行口座から行われていれば融資の審査が通らないことがある
・融資取引だけでは銀行としてはおもしろくはない
・預金取引がある銀行から融資を受ければと考えるのが銀行の本音