投融資の増加で融資謝絶

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銀行融資は事業に直接関わるもの

金融機関の法人や個人事業主への事業資金融資は文字通り事業に関わる必要資金に対して行われるものです。
大半のお客さんは運転資金や設備資金、あるいは納税資金やボーナスの支給資金など事業に関わる需要に融資資金を利用しています。
しかし残念ながら取引先の中には直接的ではないにしても、事業資金以外の使途、例えば投融資に資金を流用しているケースがあります。
管理者の担当先にH社があります。
主にスポーツ用品の卸売りをしている会社です。
私がH社の担当者となる際、前任者と引き継ぎの挨拶に伺ったのですがその時前任者が運転資金の融資の提案をしていました。
そして数日後H社から連絡が入り、先日の提案のあった融資をお願いしたい旨の話がありました。
私としては正式にH社の担当となった直後であり、よくわからないまま前任者からの引き継ぎ事項と割り切って融資の実行まで手続きをしました。
貸借対照表上に記載されている有価証券の金額の規模が大きいことにやや疑問を感じましたが、あくまでも前任者からの引き継ぎ事項と考えて淡々と融資手続きを進めました。

頻繁になされている有価証券投資

それから数か月がたち、私はH社の有価証券のことが気になり改めて過去から現在までのH社の決算書や取引状況を確認しました。
過去数期間の決算書を眺めていると、年々有価証券の金額が増加していることを改めて把握しました。
そして結果論ですが過去の当行他他行からの融資は有価証券投資に流れていることがわかりました。
当行のH社の預金口座の動きを調べてみると、融資した資金が直接有価証券投資に使われている事態はなかったものの、頻繁に某証券会社宛の振込がなされていることがわかりました。
これは直接的にはないにせよ、当行他金融機関からの融資の一部が有価証券投資に流用されていることになり、融資の管理上まずい事態でした。

金融機関の考え方を説明

私はH社との社長と面談をしました。

当方:「有価証券への投資が結構増えていますが、どのような目的ですか」

先方:「別の大きな目的があるわけではありません。資金的に余裕がある分を有価証券で運用しているのです。銀行さんに預けておいてもほとんど利息などつかないでしょ」
当方:「有価証券に投資されようがどうかは基本的に自由ですので、御社が判断されることで私どもが口をはさむ事柄ではありません。
しかしながら当行は御社に融資をさせていただいております。
当行の融資はすべて運転資金に利用していただくことで実行させていただいております。
当行の融資資金が直接的に有価証券に向かっているとは思いませんが、当行からの融資金額が増えている中で有価証券投資額も増えているとなれば、間接的にせよ融資した資金の一部が有価証券投資に向かっていると考えざるを得ません。
別の申し上げ方をすれば有価証券投資を行わなければ当行からの融資は必要ないかもしれません」

先方:「もちろん御行から借りたお金をすぐに有価証券の投資には回していませんよ。あくまでも売上先から代金が入ってきて資金に余裕が出た時に有価証券への投資を行っているのですよ」

当方:「わかりました。ところで有価証券投資はこれからも増やすおつもりですか」

先方:「増やすとお宅が困るのでしょ。そして銀行さんの理屈もある程度はわかります。価格の問題がありますがなるべく早く会社で有価証券の投資を行うことはやめて今、持っているものは売るようにしますよ」

当方:「そうですか。そうしていただくと御社への取引が今まで以上にしやすくなります」

私からは有価証券投資に対する銀行の考え方を説明するとともに、有価証券投資が増えている状況ではJJ社との取引が拡大しづらい旨を訴えたのです。
そして社長からは「わかった」旨の回答があり、かつ順次有価証券を売却していく表明を受け、ひとまず安心をしました。

さらに有価証券投資が増加

それから数か月後が経過した時期にH社から電話が入り、従業員に支払うボーナス資金の融資を受けたいとの相談がありました。
私は検討資料として最近の試算表をお願いしました。
1週間後に試算表が用意できたとの連絡があり、私はその試算表をいただくためにJJ社の社長を訪問しました。
そして社長から渡された試算表をみて愕然としました。
この前に減らしていくと約束してくれた有価証券投資が減るどころが逆に増加しているのです。

当方:「先日有価証券投資は減らしていくとおっしゃったのにこの試算表を見る限り、むしろ増えているではないですか。どういうことでしょうか」

先方:「いやぁ~、証券会社の担当者が熱心でね。いい株式があるからとセールスを受けたものだから買ってしまったんだよね。すぐに売りますから心配しないでください」

当方:「率直に申し上げますがこのような状態ではボーナス資金の融資は出来ません」

先方:「どうして?社員にボーナスを支払うためにお金を借りたいと言っているのですよ。有価証券を買うために借りたいと言っているわけではないのですよ。どうしてだめなの?」

当方:「そのことは先日もご案内したとおり、直接的にせよ間接的にせよ当行からの融資の資金が有価証券に回っていることが考えられる状態では追加の融資は出来ません。
この前、ご理解いただいたものと考えておりましたが」

先方:「でも今回はちゃんと社員へのボーナス資金に使用しますからお願い出来ませんか?」

賞与資金を謝絶

前回面談時に有価証券投資に対する金融機関の考え方を説明し、これからは減らしていくと言われたにも関わらず逆に増えていました。
金融機関の事業資金融資の返済原資は事業と通じて得た利益が源泉となります。
ところが一部にせよ融資資金が有価証券投資に回っているとなれば、理論的にはその分だけ返済原資となる利益が少なくなります。
また有価証券は価格変動が大きい特徴があります。
幸いにも利益が出れば良いですが、売却損など発生すればそれだけ資金繰りに穴があくことになります。
資金繰りに穴があくということは事業に回せる資金に支障が出る可能性もあるのです。
このように有価証券投資は私たち融資を行う側から見ると返済原資を毀損させる可能性がある危険なものだと言えます。
また定性面においても悪影響があります。
つまり有価証券は価格変動が日々発生する特徴がありますから、誰しも日々の価格変動が気になります。
価格のことが気になり社長が事業に専念出来ないことも懸念されます。
もっと申し上げれば事業に真面目な社長は会社の資金をそもそも有価証券投資に回したりしません。
せいぜい社長個人の資金の一部で有価証券投資を行う程度です。
このような社長が経営する会社に融資を行うことは回避すべきなのです。

その後、私は社長あてに連絡をし今回のボーナス資金の融資をお断りしました。
そして今後有価証券投資が減少しない限り、これからも新規融資の採り上げは非常に困難であることを伝えました。
少し厳しい言い方だったかもしれませんが、社長にわかっていただかないとJJ社に対する融資が出来ません。
本当に事業で必要な需要が出てきた場合でも、融資が出来ないとなればそれはJJ社にとってマイナスとなります。
そうようなことになってほしくないため私は社長に少し厳しい言い方で有価証券投資をとがめたのでした。



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