融資審査マンの見方

賞与資金に他の使途が混入

C社は金属製ネジの製造業。
全国の機械メーカーなどに納入をしています。
社長や経理担当の奥さんは真面目な人柄で、比較的安心して取引の出来る顧客だと私は認識をしていました。
C社に対しては年2回、賞与資金の融資を定例的に実施しています。
そして今回もC社から夏の賞与資金の申込があり、私も「いつものこと」として「わかりました。準備が出来たら連絡します」と安易に対応をしていました。

申し込み金額の異変

私はさっそく稟議の準備を始めました。
企業が従業員に支給する賞与の総額は基本的に毎回大きな変動はありません。
このため賞与資金の融資額も毎回ほぼ同額であることが大半のケースです。
私は稟議に着手するにあたり、過去の賞与資金の融資額を確認しました。
最近の過去3回の融資額はいずれも10百万円と同じ金額でした。
ところが今回、C社からの申し出金額は30百万円。
いままでの実績を大きく上回る金額です。

金額の根拠を確認

なぜ今回は例年を大きく上回る金額の申し出なのか?
これをあいまいにしたままでは稟議は書けません。
C社にその理由を尋ねる必要があります。
賞与資金は支給対象の従業員数に1人あたりの平均支給額を乗じることにより求めることが出来ます。
したがって賞与資金が増減する場合には従業員数の増減あるいは平均支給額の増減を把握する必要があります。
ただ今回のC社からの申し出金額は30百万円と例年の3倍ほどの金額です。
単純に従業員数の増加あるいは平均支給額の増加では説明がつかない事情を私は感じました。
私はC社の経理担当の代取夫人に支給対象の従業員数や平均支給額を尋ねましたが、代取夫人からの答えは「ほとんど変わりません」というもの。
この答えでは賞与資金の金額が増加した理由には到底なりません。
金額の妥当性が見出せない場合、賞与資金の申し出の中に他の資金使途のものが混在していることが考えられます。

実態の資金使途を確認する

賞与資金という名前がついていますが、簡単に言えば賞与の支給が要因で会社の資金繰りが悪化するので、融資を行うわけです。
私は常日頃から取引先より融資の相談を受けた際、運転資金や賞与資金、納税資金、設備資金などその名前に惑わされず、なぜ必要なのか、資金が必要な要因は何かを確認することにしています。
資金要因を確認することは金融機関の融資業務においてはとても大切なことです。
今回、支給額を上回る賞与資金の申し出があったということは、賞与の支給という資金要因の他に、他の資金要因が含まれていることになります。
この他の資金要因が何かを突き止めることが大切なのです。
私は代取夫人に過去の賞与資金の融資額を示しながら、賞与支給に加えて他の要因がないかを率直に尋ねました。
そして代取夫人から「ある売り先からの入金が遅れているため」という答えを引き出しました。
C社の取引先は大手企業もありますが、多くは零細企業が占めています。
ある零細企業の取引先からの回収が遅れ気味であったため、C社の資金繰りにもマイナスの影響が出始め、賞与資金という名目の下に回収遅れによる資金不足を混在させたのです。

賞与資金以外の検討

賞与資金の中に他の使途の資金が混在している状態では稟議を書くことは出来ません。
金額の妥当性を稟議の中で説明することが出来ないからです。
このような場合には賞与資金は賞与支給額の範囲内で検討し、他の使途の部分は賞与資金とは切り離して検討する必要があります。
私は代取夫人に取引先からの回収遅れの解消時期を尋ねました。
代取夫人もその時期を定めることが出来ないようです。
回収に長期間を要することも考えなければいけませんし、もしかしたら回収不能の事態も想定されます。
いずれにしても長期にわたってC社の資金繰りにマイナスの影響を与える可能性があります。
融資返済能力に懸念が生じてしまいますから、金融機関としては回収遅延が要因の融資はどちらかいうと消極的になってしまいます。

経営者の良好な資質

それでは回収遅延を要因とする融資をどのように組み立てるか。
日頃からC社の担当者として私は社長や夫人の生真面目な人柄を熟知していましたから、何とか融資が出来ないか考えました。
当行は決してC社の主力銀行ではありません。
ただ稟議を書いても上司から「うちの役割ではない。主力行に相談に行くように顧客に伝えること」と言われかねません。
C社の業績はまずまずと言ったところですが、決して好調とは言えません。
しかし中小企業の経営は経営者の資質に大きく依存します。
この点、担当者として私は日頃からC社の社長や夫人の資質に問題はないと感じていました。
またC社の取引先は確かに零細企業が多いのですが、かなり小口分散しており、特定の取引先に経営基盤が依存しているわけではありません。
したがって今回の回収遅延による資金繰りのマイナスが、今後ますます拡大する状況とは言えないのです。
私は上司に回収遅延の影響は限定的と考えられることを説明するとともに、経営者の資質を理解してもらうため、社長と上司との面談をセットしました。
私がどれだけ上司に資質に問題はないと言っても、百聞は一見にしかずです。
実際に面談してもらって上司に納得してもらうことが得策と考えたわけです。

賞与資金と長期融資

面談の結果、上司の評価もよく賞与資金とは別に回収遅延に伴う資金繰り安定のための融資を実行することになりました。
資金繰りの安定にはなるべく返済負担の少ない長期融資が適しています。
一方で回収遅延に起因する融資ですから、当行としては出来たら保全がほしいところです。
この結果、資金繰り安定のための融資は信用保証協会の保証付融資にて対応することになりました

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