銀行の融資においては決算資金という言葉があります。
実際、多くの事業者が銀行から決算資金の融資を受けています。
決算資金とは何かについてわかりやすく説明をします。
目次
決算資金の決算とは
決算資金の決算とは銀行の決算ではありません。
融資を受ける事業者の決算のことです。
決算とはいろいろな意味がありますが、もっとも重要な意味は税務当局に1年間の所得を申告しそれに伴い税金を納付することです。
また決算の結果、株主に配当を支払うこともあるでしょう。
つまり決算資金とは決算申告にともなって生じる納税と配当の支払のことです。
決算資金の融資対象
このように決算資金とは決算申告の時期に発生する納税のための資金や配当金支払いのための資金を融資の対象としています。
納税資金や配当資金は一時的に多額の支出を伴う可能性がありますから、資金繰りに支障をきたすことがあります。
そのため銀行では決算申告に伴う納税資金や配当金支払資金を融資することで事業者の資金繰り安定を支援しているのです。
実際に多くの事業者において銀行から決算資金の融資を受けています。
決算資金の融資形態
通常、決算申告時以外に中間期にも税金でいえば予定納税として税金を納付すると思います。
つまり納税資金や配当金の支払は半年ごとに生じるイベントと言えます。
このようなこともあり決算資金の融資形態は通常は期間6ヶ月の短期融資にて実行されます。
次に納税資金や配当金の支払時までに決算資金の融資を完済し、必要であれば再び次の決算資金の融資を受けるということです。
決算資金の資金使途に注意
いままで説明をしましたように決算資金融資の資金使途は納税資金や配当金の支払が対象です。
ところが他の要因でも資金需要があり、決算資金の中に納税資金や配当金の支払資金以外のものを混入して決算資金の融資を申込む事業者がいらっしゃいます。
ある実際の事例を紹介します。
決算資金の資金使途疑義の事例
C社は金属製ネジの製造業。
全国の機械メーカーなどに納入をしています。
社長や経理担当の奥さんは真面目な人柄で、比較的安心して取引の出来る顧客だと私は認識をしていました。
C社に対しては年2回、決算資金の融資を定例的に実施しています。
そして今回もC社から夏に決算資金の申込があり、私も「いつものこと」として「わかりました。準備が出来たら連絡します」と安易に対応をしていました。
申し込み金額の異変
私はさっそく稟議の準備を始めました。
決算資金の融資稟議にあたっては税金の納付書や配当金の支払い計画書などの資料を徴求して金額の妥当性を検証しています。
最近の過去3回の決算資金の融資額はいずれも10百万円と同じ金額でした。
ところが今回、C社からの決算資金の申し出金額は30百万円。
いままでの実績を大きく上回る金額です。
金額の根拠を確認
C社に対してはいつものとおり税金の納付書と配当金の支払い計画書の提出を依頼し徴求しました。
そのエビデンスを見ると合計で12百万円あまりでした。
ということは今回の決算資金の融資希望額30百万円との間に18百万円の差があります。
この差は決算資金以外の資金が混入していることになります。
実態の資金使途を確認する
今回、決算資金で必要な金額以上の融資申し出があったということは、決算資金という資金要因の他に、他の資金要因が含まれていることになります。
この他の資金要因が何かを突き止めることが大切なのです。
私は代取夫人に今回の決算資金のエビデンスとして徴求した税金の納付書などを示しながら、決算資金に加えて他の要因がないかを率直に尋ねました。
そして代取夫人から「ある売り先からの入金が遅れているため」という答えを引き出しました。
C社の取引先は大手企業もありますが、多くは零細企業が占めています。
ある零細企業の取引先からの回収が遅れ気味であったため、C社の資金繰りにもマイナスの影響が出始め、決算資金という名目の下に回収遅れによる資金不足を混在させたのです。
決算資金以外の検討
決算資金の中に他の使途の資金が混在している状態では稟議を書くことは出来ません。
金額の妥当性を稟議の中で説明することが出来ないからです。
このような場合には決算資金は決算資金として必要な金額の範囲内で検討し、他の使途の部分は決算資金とは切り離して検討する必要があります。
私は代取夫人に取引先からの回収遅れの解消時期を尋ねました。
代取夫人もその時期を定めることが出来ないようです。
回収に長期間を要することも考えなければいけませんし、もしかしたら回収不能の事態も想定されます。
いずれにしても長期にわたってC社の資金繰りにマイナスの影響を与える可能性があります。
融資返済能力に懸念が生じてしまいますから、金融機関としては回収遅延が要因の融資はどちらかいうと消極的になってしまいます。
経営者の良好な資質
それでは回収遅延を要因とする融資をどのように組み立てるか。
日頃からC社の担当者として私は社長や夫人の生真面目な人柄を熟知していましたから、何とか融資が出来ないか考えました。
当行は決してC社の主力銀行ではありません。
ただ稟議を書いても上司から「うちの役割ではない。主力行に相談に行くように顧客に伝えること」と言われかねません。
C社の業績はまずまずと言ったところですが、決して好調とは言えません。
しかし中小企業の経営は経営者の資質に大きく依存します。
この点、担当者として私は日頃からC社の社長や夫人の資質に問題はないと感じていました。
またC社の取引先は確かに零細企業が多いのですが、かなり小口分散しており、特定の取引先に経営基盤が依存しているわけではありません。
したがって今回の回収遅延による資金繰りのマイナスが、今後ますます拡大する状況とは言えないのです。
私は上司に回収遅延の影響は限定的と考えられることを説明するとともに、経営者の資質を理解してもらうため、社長と上司との面談をセットしました。
私がどれだけ上司に資質に問題はないと言っても、百聞は一見にしかずです。
実際に面談してもらって上司に納得してもらうことが得策と考えたわけです。
決算資金と長期融資
面談の結果、上司の評価もよく決算資金とは別に回収遅延に伴う資金繰り安定のための融資を実行することになりました。
資金繰りの安定にはなるべく返済負担の少ない長期融資が適しています。
一方で回収遅延に起因する融資ですから、当行としては出来たら保全がほしいところです。
この結果、資金繰り安定のための融資は信用保証協会の保証付融資にて対応することになりました