減価償却を先送りした場合の銀行融資審査への影響

減価償却費を計上すると赤字決算になってしまうために、減価償却を先送りする例があります。
減価償却を先送りして黒字決算とした場合、銀行の融資審査にはプラスの効果をもたらすのでしょうか。
減価償却を先送りした場合の銀行融資審査への影響について説明をします。

質問

減価償却を先送りした場合の実質利益については承知しております。
減価償却を先送りした場合ないしは減価償却費を抑えて黒字にしても意味がないと。
ただ、７年ほど前は赤字だったけど、その後業績は回復しているケースで、税務上の繰越欠損金が７年で切り捨てになってしまうため、節税のために減価償却費をゼロにして使い切ってしまいたいというときがあります。
また、建設業の会社において、公共工事入札のための経営審査の点数を良くしたいために減価償却費を抑えたいというときがあります。
償却前利益は減価償却費を計上しようがしまいが同じなのだから、それを承知した上でなら減価償却を先送りしても問題ないのでしょうか？
つまり、「減価償却を先送りした、ないしは減価償却費を計上していない」という一事で、具体的に融資審査の点数が下がったり格付けが下がったりするのでしょうか？
表面上の利益から実質的な利益に減らされる以外に、別途点数が下がるのかどうか、というところが知りたいと常々思っています。
以上よろしくお願い申し上げます。

減価償却に対する銀行の考え方

減価償却というのは主に償却対応の有形固定資産を取得した場合、定められた法定耐用年数にしたがって毎年経費計上することになっています。
機械等の有形固定資産は取得後、何年にもわたって事業活動に使用されるものであるため、その取得コストも毎年の分割にて経費計上することが定められています。
したがって減価償却のというのは理になかった考え方です。
そして減価償却に対する銀行の考え方ですが、法定で決まっている以上はきちんと減価償却費として法定分を毎年経費計上しなければいけなという考え方です。

減価償却を先送りした場合

もっとも減価償却を行うと赤字決算になってしまうために減価償却を先送りして黒字決算にする会社が存在することは銀行も承知をしております。
減価償却をきちんと計上するか、あるいは減価償却を先送りするかはその会社の判断ですから、外部の銀行がとやかく言うことではありません。
しかしそのような会社、つまり減価償却を先送りした会社から融資の申込を受けた場合には、この減価償却を先送りしたことは融資審査に影響します。

信用格付への影響

まず銀行の融資先に対する総合的な評価である信用格付に影響します。
信用格付とは融資先に対する銀行による総合的な評価であり、信用格付により銀行のその融資先に対する融資方針の原則が定められます。
つまり融資先の資金需要には原則として積極的に融資に応じるとか、融資は行わずにもっぱら融資の回収に軸足を置くとかといったように銀行の融資方針が信用格付により定められます。
そしてその信用格付の評価のもとになるのが決算書になりますが、信用格付の評価においては表面的な決算書の数字で判断するのではなく、実態の決算書の数字にて判断を行っています。
つまり減価償却を先送りして表面的な決算書を黒字決算にしても、本来の減価償却を行えば赤字決算となるのであれば赤字決算として、つまり実態の決算書に置きなおして信用格付を評価しています。
当然、実態が赤字決算であれば信用格付が下がる方向に力が働きます。

キャッシュフローには影響しない

もっとも減価償却というのは会計上の経費計上であり、実際に現金が流出するものではありませんから減価償却を先送りしてもキャッシュフローには影響しないことは承知をしております。
融資の返済が可能か否かはキャッシュフローの水準によって判断することになりますから、返済ができるどうかという判断には減価償却を先送りしたことは影響しません。

減価償却の先送りは融資審査にはマイナス

融資が返済できるかどうかのキャッシュフローには減価償却の先送りは先ほどの説明しましたように影響はありません。
たしかに銀行の融資審査の中心は融資が返済できるかどうかの見極めでありますから、減価償却の先送りは融資審査には基本的に影響しないとも考えられます。
しかし総合的に減価償却の先送りは融資審査にはマイナスとなります。
その理由としては、
・そもそも償却対象の資産があれば、毎期償却計上するのが原則であること
・減価償却を先送りするのは根本として利益体質がぜい弱であることの証
として銀行は考えるからです。
利益体質が十分な会社はそもそも減価償却の先送りはしません。
減価償却の先送りをするのは利益体質がぜい弱であるからで、中長期でみれば融資の返済能力に疑義がある会社と銀行は考えます。