資金繰りに窮する居酒屋からの融資相談事例をご紹介します。
居酒屋を営んでいる女性社長の担当先V社があります。
もともとはこの社長のお母さんが経営していたものを引き継いだものです。
電車の駅にほど近いところに店舗を構え、主にサラリーマン向けに低料金で提供している居酒屋です。
客席は20席ほどで決して大きな居酒屋ではありません。
昼間は営業しておらず夕方から深夜にかけての営業です。
このような女性社長から当面の運転資金として500万円の融資の相談がありました。
3期連続赤字
実はV社はここ3年ほどは赤字決算の状態が続いています。
東日本大震災の影響で客足が遠のいてしまい、かつ近隣にも低料金の居酒屋が相次いで開店したことから、客数の減少と客単価の低下というダブルパンチで売上に苦しんでいました。
居酒屋というのは現金商売が基本です。
したがって売上回収までの立替というものは発生しませんから、基本的に運転資金は必要ではない商売の形態です。
このように運転資金が必要ではないところから運転資金の融資相談を受ける場合、大抵は赤字の補填であることが考えられます。
実際、V社も赤字決算が続いていますから、やはり赤字の補填です。
V社の女性社長にも確認しましたが、やはりそうでした。
業績改善策は?
私は社長に今後の業績回復の見込みや社長が考えている改善策について質問を行いました。
赤字が連続していますから、信用保証協会の保証云々より前に銀行として今後の事業の見通しは確認しておく必要があります。
社長からはいくつかの改善計画について説明がありましたが、その中でもっとも力を入れていくと言われていたのが付近の同業他社と協力して店舗周辺の人通りを増やすというものでした。
社長としては客単価を上げることは難しいと考え、客数の増加にて業績の改善を計画していたのです。
客数を増やすとしても簡単ではありません。
付近にも居酒屋を含む商業施設があり、社長はこの商業施設付近に人が流れているため、どうにかしてV社の店舗側へ人の流れを変えたいというものでした。
そのためにはV社単独では効果が期待出来ないため、近隣の同業店舗数店と協力して人の集客を行い、V社の店舗への客数を増やすというものでした。
私はこの計画については理解は出来たものの、果たしてそう簡単にうまく行くのかどうか、確信が持てませんでした。
むしろ無理ではないかと考えてしまいました。
すぐに資金繰りが窮する可能性
そうはいってもV社は日本政策金融公庫からも借入がありますが、それ以外は当行のみの取引先です。
取引の期間も長いですから、私としても赤字ということだけで融資を断ることも躊躇われ、信用保証協会の保証付にて融資を検討することになりました。
V社の社長にも信用保証協会の保証を得ることを前提に融資を検討することを伝え、信用保証協会に事前相談すべく社長から事前相談に関わる個人情報の同意書類を徴求しました。
翌日、私は信用保証協会にV社の最近の決算書を持参し、社長から依頼のある500万円の融資案件を相談しました。
ここ3期連続して赤字であることや、既に相応の保証利用残高があることから信用保証協会からは希望額の500万円ではなく200万円程度の検討が精いっぱいとの回答を受けました。
金額の復活交渉を試みましたが、信用保証協会側からは満足のいく回答を得ることは出来ませんでした。
私は「200万円で足りるかな~」と考えつつ、V社の社長に相談結果を連絡しました。
社長からは金額が減額となったことは残念だが200万円でも良いから融資を受けたいとのこと。
ただ私は不安でした。
それは200万円ではたしてV社の資金繰りは当面窮することがないのかどうか気がかりだったからです。
というのはV社の直前の決算はおよそ800万円の赤字でした。その前の決算のやはり同程度の赤字です。
V社は現金商売の事業ですから理論的には年間800万円の資金不足が発生するということです。
すると200万円の資金は年間の4分の1、つまり3ヶ月で底をついてしまう計算です。
3か月後には再び資金繰りに窮するということです。
3か月後に再び融資をすることはほぼ不可能です。
したがって今回200万円の融資を仮に行ったとしても、V社の資金繰りを当面安定させることは出来ないのです。
融資断念
社長は近隣の店舗の協力して集客数を増やす計画を語っていましたが、たった3か月後にその効果が表れてV社の資金繰りが窮する状況が改善できる見込みはありませんでした。
私は非常に言い難かったのですが、V社の社長に融資をしても数か月しか持たない状況では融資が出来ないことを伝えました。
社長は最初は戸惑いを反応を示され、何とか融資をしてもらえないか懇願されました。
しかし数か月後に資金繰りが窮してしまう可能性があるのにも関わらず、たとえ信用保証協会の保証があるとはいえ、融資をすることは私の信義上出来ませんでした。
社長に対しては融資により当面の資金繰りに支障がないことを見えてこないと融資が出来ないことの理解を求めました。
社長は非常に困った表情をされており私としても辛かったのですが、やむを得ません。
社長からは事業の改善の兆しが見えてきたら再び融資はお願い出来るのか質問を受けましたが、それは当然ながら検討することを伝えました。
社長からは今の商売をやめるわけにはいかないこと、商売を続けるためには近隣の店舗と協力して集客を増やす手立てしか今はないこと、その計画を最後として注力したいことを説明がありました。
そして当面の資金はとりあえず社長のお母さんに用立ててもらうことの話がありました。
私は非常に心苦しい思いをしましたが、融資の基本として今回の相談を受けることは出来ませんでした。
そして社長には計画の進捗を定期的に教えてほしいこと、進展が見えてきたら改めて融資の相談を受けることを伝えました。
V社の業績が改善するかどうか私には正直わかりません。
やはり今回の融資に応じた方がよかったのかなという思いもあります。
融資の原則的な考え方の一方で担当者としてのお客への思いの狭間で悩んだ融資案件でした。