事業者の資金需要の多くは運転資金と設備資金になります。
そのため銀行が行う事業者向けの融資の大半は運転資金と設備資金が占めています。
ところで運転資金として必要な資金を設備資金に使うとどうなるでしょうか?
資金繰り面での考え方と銀行からの融資への影響について融資担当の銀行員が説明をします。
目次
運転資金と設備資金の違い
最初に運転資金と設備資金の違いについて整理をしておきましょう。
運転資金は短期の資金需要
運転資金とは売上代金回収までの資金繰りのつなぎです。
飲食業などの現金商売を除いて多くの事業では売上は掛売りで行われています。
掛売りということは売上が発生した時点では売上代金は回収されません。
後日、販売先との契約に基づいて振込などの方法で売上代金を回収することになります。
売上代金が回収されるまでの資金繰りの維持
しかし売上代金が回収されるまでの間に、仕入代金の支払いや従業員の給料などの経費の支払いがあります。
これらの資金は売上代金とは別の資金で対応をする必要があります。
この別の資金で対応する必要があるものが運転資金そのものです。
一言で言えば運転資金とは売上代金回収までの資金繰りのつなぎです。
運転資金とは売上代金が回収されるまでの間の資金繰りのつなぎ
運転資金の必要性は売上代金回収により収束する
このように運転資金は売上代金が回収されるまでの間の資金需要に対応するものですから、売上代金が回収されることにより運転資金の必要性は収束します。
融資をする銀行の立場からすると運転資金の融資は売上代金の回収によって返済されるということになります。
運転資金は売上代金が回収されることでその必要性が収束する
設備資金は長期の資金需要
一方の設備資金ですが、こちらは設備投資で必要となる資金のことです。
製品を製造するための機械を購入する、工場を建設する、店舗の改装する、運送車両を購入するなどが設備投資に該当します。
設備投資は今後中長期にわたって事業に貢献する性質のものです。
運転資金のように売上代金が回収されるまでの間の資金繰りのつなぎではありません。
設備投資に必要となる設備資金は今後の中長期にわたって生み出される利益によって回収していくことになります。
したがって設備資金は長期の資金需要です。
そのため銀行の設備資金の融資の期間は長期になることが一般的です。
設備資金は今後中長期にわたって生み出される利益により回収していく
運転資金を設備資金に使うことの意味
それでは運転資金として必要な資金を設備資金に使うことの意味や影響について説明をします。
運転資金の確保は資金繰りの維持に不可欠
さきほど説明をしましたように、運転資金は仕入代金の支払いや従業員への給料などの経費の支払いに必要な資金です。
つまり運転資金は事業活動の継続において絶対に欠かすことができない資金です。
運転資金が不足していれば、仕入代金の支払いをすることができません。
運転資金が不足していれば、従業員に給与の支払いをすることができません。
もし仕入代金の支払いができない、給料が支払えないとなれば事業活動を継続することが困難になるでしょう。
よく言われる言葉でいれば運転資金が不足するということは資金繰りがショートすることです。
運転資金の不足は資金繰りのショートを意味する
運転資金を設備資金に使うことは資金繰りショートがする危険がある
このように事業活動の継続の上で、絶対に欠かすことができない運転資金を設備資金に使うということは運転資金が不足することにつながります。
繰り返しですが運転資金の不足は資金繰りのショートです。
資金繰りがショートしてしまえば、その時点で事業は破綻します。
このように運転資金を設備資金に使うことは非常の危険な行為です。
運転資金を設備資金に使うことは非常に危険な行為
運転資金を設備資金に使う前に考えるべきこと
運転資金を設備資金に使う前に考えるべきことを説明します。
まずは銀行に設備資金の融資相談を行う
運転資金は確かに資金繰りの維持に極めて重要なことですが、一方で設備資金も事業の中長期の維持・拡大のために必要な資金です。
設備投資を計画する場合には、運転資金を使うことではなくまずは銀行に設備資金の融資の相談を行ってください。
つまり設備投資で必要となる設備資金は運転資金を使うのではなく、別途銀行からの融資にて調達すべきものなのです。
設備投資で必要となる設備資金はまずは銀行からの融資で調達する
運転資金と設備資金を分けて考える
運転資金も設備資金も同じお金ですから、このお金は運転資金と表示があるわけではありません。
もちろん、このお金は設備資金と表示があるわけではありません。
しかし資金繰りを安定させる観点では運転資金で必要となる資金と設備資金で必要となる資金をきっちりと分けて考えることが重要です。
運転資金と設備資金の混合は危険ですし、避けるべき考え方です。
運転資金と設備資金は分けて資金繰りを考えることが大切
設備資金の融資が受けられない時
設備資金の融資を銀行に相談したものの、融資が受けられないといったこともあるでしょう。
その場合には運転資金を設備資金に使うのではなく、設備投資計画の見直しをまずは優先して考えてください。
本当に必要な設備投資なのか、いますぐに行わないといけない設備投資なのか、設備投資の規模を縮小することはできないかをまずは考えてください。
設備投資も大切だが・・・
設備投資も事業の将来の維持・拡大には優先度が高いことであることは確かです。
しかし事業においてもっとも重要なことは資金繰りの維持です。
運転資金を設備資金に使うことはこの事業でもっとも重要な資金繰りの維持が不可能になってしまう可能性が大です。
事業の継続には設備投資よりも運転資金の確保が優先されます。
事業の継続には設備投資を実行することよりも運転資金を確保して資金繰りを維持すること
運転資金の融資を設備資金に使うと・・・
ところで運転資金を銀行からの融資で調達することは日常的に行われていることです。
この銀行から運転資金として受けた融資を全部もしくは一部でも設備資金に使うとどうなると思いますか?
運転資金融資の資金使途違反
銀行から運転資金として受けた融資を一部でも設備資金に使うということは、それは銀行融資の資金使途違反になります。
銀行は融資後に資金が資金使途通りにきちんと使用されているかどうかを厳格に管理しています。
資金使途違反は必ずばれる
そして銀行融資の資金使途違反は必ず銀行にわかってしまうと考えてください。
資金使途違反の代償
運転資金を設備資金に使うといった融資の資金使途違反を行うと必ず銀行からペナルティーを受けることになります。
具体的には資金使途違反のペナルティーは次のとおりです。
資金使途違反のペナルティー
・融資の一部の即時全額返済を求められる
・取引信義に反する取引先として二度と融資は受けられなくなる
銀行融資の資金使途違反は大きな代償が待っています。
絶対に避けてください。
運転資金を設備資金に使うとどうなりますか?のまとめ
以上、運転資金を設備資金に使うとどうなるかについてまとめますと次のようになります。
まとめ
・運転資金が不足するということは資金繰りがショートすること
・資金繰りがショートすればその時点で事業は破綻する
・設備資金は銀行からの融資にて別途調達することが最善策
・銀行からの融資が難しい場合には設備投資計画の見直しを検討すべき