設備資金の融資申し込み事例としてある製造業からの事例を紹介します。
設備資金5,000万円の融資申し出
H社は電気部品の製造業者です。
当社が製造した部品は最終的に大手メーカーの電気製品にも組み込まれており、その技術力等には一定の評価を得ています。
当行は準主力銀行として融資の支援をしてきており、今回H社から製造ライン増設のための設備資金として5,000万円の融資申し込みを受けました。
当社の社長からは「今回、新たに大手メーカーへの納入案件が決まりました。中長期的に見て我が社の売上の大きな柱に成長することが期待出来ます。そのためには今の時点で新たな製造ラインの増設がどうしても必要なのです。ぜひともお願いします」と強く設備資金の融資要請を受けました。
私は当社の社長からの説明とともに、具体的に大手メーカーへの納入に関する契約書や見積書などの書類の提示を受けて、今回の製造ライン増設が必要であることの背景に納得感を覚えるとともに、社長が主張するように、将来的に当社の大きな屋台骨になり得る話だと感じました。
当行は準主力行として当社の成長を支援する一定の役割があり、私は担当者として今回の設備資金の融資は前向きに検討したいと考えていました。
借入過多の財務体質
一方で当社は借入金が多い財務体質で資金繰りも忙しい状態でした。
製造工程がやや長いこともあり、最終的な売上回収までの立替期間が長く、所要運転資金を多く必要とすることが指摘されてきました。
新規受注のために設備投資を行うという極めて前向きな設備資金の融資案件であるのですが、ただでさえ借入金が多い状態のなかで「これ以上貸して返せるのか?」という大きな壁がありました。
当社の社長からは「年間の借入返済額はおよそ1億5,000万円です。運転資金が必要ですから、ほぼ同じ金額の調達が必要です。ここ数年は借りては返す状態が続いています」という苦しい台所事情をヒアリングしました。
つまり毎年毎年、返済額とほぼ同じ金額の融資を受けることにより当社は資金繰りを維持しているのです。
逆の言い方をすれば、返済に見合う調達が途切れれば、その時点で当社の資金繰りに大きな支障が発生するということです。
大幅減収・赤字転落
当社が過去、無難に資金調達が出来た背景には比較的好調な業績が続いていたことが考えられます。
しかし2011年度は大幅な減収決算となり、利益も赤字に転落しました。
こうなると、毎年無難に出来た資金調達に大きな不安が発生します。
今回の設備資金とは別に資金繰り維持のために「毎年恒例」の資金調達が必要となりますが、現時点ではまだ調達の可否は決まっていませんでした。
保全重視
私としては今回の設備資金の融資については当社の業績にプラスにつながるという思いから、何とかして稟議を通したいとの思いがあるのですが、毎年続けている運転資金の調達が途切れた場合にどうなってしまうのかという大きな不安があったのも事実です。
したがって今回の設備資金融資には保全確保を絶対条件として組み立てる必要があると考えました。
社長と担保となるべき資産有無を相談しましたが、資産の多くはすでに担保提供されており、新たな担保となるものを見出すことは出来ませんでした。
資産の多くは当社の主力銀行に提供されていたものですが、よく見てみると主力銀行は融資額以上の担保を徴求していることが判明しました。
私は社長に「主力銀行に担保の一部を当行に譲渡するよう交渉してもらえませんか?稟議を通したいのですが、それには担保をいただくことが不可欠だと考えています」と伝え、社長にも納得していただいてさっそく主力銀行に交渉してもらうことになりました。
主力銀行の頑なな姿勢
主力銀行の融資残高から見て同銀行の保全は過剰に担保されていることから、社長に行っていただく担保の一部譲渡交渉は実現可能性が高いものと私は少し楽観視していました。
しかし予想に反し主力銀行から同意を取ることが難しい旨、後日社長から電話連絡を受けました。
社長としても当行からの設備資金融資に大いに期待しているところがあり、相当強く主力銀行に迫ってもらったようですが、主力銀行の頑なな姿勢を崩すことは出来なかったようです。
方針転換
保全確保を前提条件として組み立てを考えていた私の融資稟議方針は難しくなりました。
信用保証協会にも打診を試みましたが、信用保証協会としても有担保でないと追加の保証が難しい状況でした。
他に担保となるべき資産等を見つけることは出来ず、設備資金の融資の申し込みをお断りせざるを得なくなりました。
私は社長に申し訳ないことを伝えるとともに、改めて主力銀行は十分な担保を取っていること、信用保証協会は有担保であれば追加保証が得られる可能性があることを説明し、主力銀行に信用保証協会保証付での融資を相談するよう促しました。
結果はリスケ
社長はその後、主力銀行に相談をされたようですが、設備資金の融資を引き出すことが出来ないことの報告を受けました。
しかし社長が今回の製造ライン増設にかける思いは強いものがあり、手許の資金を設備投資に使いたいとの相談を受けました。
手許の資金を設備投資に使用すれば、当行を含めた借入金の返済が難しくなります。
私は少し検討に時間がほしい旨、社長に伝え上司と対応方針について相談をしました。
設備投資をするために返済条件を緩和することは異例な部類に入りますが、
設備資金融資の結論
・前期決算が大幅減収・赤字転落であることから、今年度の運転資金の借り換え調達がスムーズにいかない可能性があること
・そうなれば設備投資に関係なくリスケせざるを得ないこと
・今回の新規受注自体は当社の将来性に寄与することであり、設備投資の必要性に合理的な理由があること
・当行は準主力銀行として当社を支える一定の役割があること
などを総合的に検討した結果、リスケに応じ、当社の資金繰りを支えることになりました。